脳卒中について。その13

06/24 13:01

 今回も、前回お話した脳卒中の後遺症とリハビリについての続きです。今回は食べ物の飲み込みが難しくなる摂食嚥下障害についてお話します。

 3.摂食嚥下障害

 嚥下とは、食べ物を口から胃まで運ぶ運動です。私たちは普段、何気なく食事をしていますが、脳卒中になると食べ物が口から入って胃の中に送り込まれる一連の運動機能がスムーズに行われなくなり、うまく食べられなくなることがあります。それを摂食嚥下障害と言います。嚥下障害が起こると、食べ物や水分が口からこぼれる、水分で咳き込むなどの比較的軽度のものから、常に食べ物や水分が気管に入る(誤嚥)など重度のものまであります。誤嚥とは、食道に送り込まれるべき食塊や水分が何らかの原因で声門を越えて空気が出入りする気管や肺に入ってしまった状態を意味します(図1)。誤嚥をした場合、通常は激しくむせて誤嚥物を喀出しようとする防御機構が働きます。しかし、気管の感覚低下などにより、誤嚥してもむせや咳嗽などの反応がない場合もあります。これを、不顕性誤嚥と言います。不顕性誤嚥では外見上、誤嚥しているか否かが判断できないため、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。嚥下障害が重度の場合には、窒息や肺炎など常に生命の危険にさらされます。また、栄養不足や脱水状態により新たな病気を起こしやすくなります。このような嚥下障害に対してはX線を使ったビデオ嚥下造影検査(VF)を行います。この検査は、食物の飲み込みの様子を観察するもので、嚥下時の食塊の通過の状態、喉頭、咽頭への貯留の有無、誤嚥の有無を確認することができます。嚥下障害がどの部位の障害で起こっているのか、誤嚥の有無、またどのような食べ物であれば安全に食べることができるか、どのような姿勢で食べれば安全に食べることができるかを評価することができます。この検査の結果を踏まえて、今後の食事形態や食事時の姿勢の調節、嚥下訓練の適応、方針を決定します。また、内視鏡(カメラ)を使用しても、唾液が喉頭、咽頭へ残留していないかを観察します。これらの検査を行って、嚥下障害のメカニズムや、安全に食べることのできる最適な姿勢や食物形態(ゼリー状、ぺースト状など)を探り、言語聴覚士(ST)や看護師、栄養士と共に訓練に結び付けていきます。

 摂食嚥下、リハビリテーションの実際

 摂食嚥下リハビリの目標は、患者さんにとって安全かつ快適な摂食状態を作り、QOL(生活の質)の向上を図ることです。食事摂取することによる肺炎や窒息などのリスクに注意しながら、患者さんの食べる楽しみや家族の要望を十分考慮して取り組む必要があります。

 口腔ケア

 口腔ケア(口の中の清掃・衛生管理)は訓練を行う上での前提条件となります。歯ブラシなどを用いて口腔内をきれいにし、食物の残りかすや細菌を除去し、口腔内の衛生状態を改善させます。専門的な口腔ケアは虫歯の予防だけでなく、高齢者の誤嚥性肺炎の発生率を低下させることが報告されています。

 1.間接(基礎)訓練

 間接訓練とは、「食べ物を用いない訓練」です。誤嚥の危険が高く直接訓練を行うことのできない場合や、経口摂取をしている場合でも食前の嚥下体操(図2)などのように嚥下諸器官の準備運動の目的で行うことも多いです。

 2.直接(摂食)訓練

 直接(摂食)訓練とは、「食べ物を用いる訓練」です。誤嚥の危険を伴うので、VF検査などで重症度を評価した上で適応を判断します。誤嚥を防ぐための体位や肢位、代償的嚥下法、食形態の工夫などの代償手段を用いることで、誤嚥の防止を図りながら、安全に直接訓練を行い、30分程度の食事時間と7割以上の摂取量を目安に、安全かつ適切な難易度の食事を段階的に進めます。VF検査で不顕性誤嚥を認めた場合には、外見上、誤嚥が分かりにくいので特に注意が必要です。食事中や食後に湿性の嗄声(声のかすれ)があるかどうか、痰が増えていないかどうかなど、誤嚥の兆候を見逃さないようにします。実際の嚥下では、気管が上で食道が下という解剖学的特徴を利用して、体幹を起こし顎を引く体位を取ることが大切になります。

 3.食物の種類・形態

 嚥下開始食として適している食材は、口腔準備期や口腔送り込み期では、咀嚼、食塊形成、咽頭への送り込みが難しいため、舌の運動に頼らずに咽頭へ流し込めるさらさらの液体やみそ汁、コーンスープ、シャーベットなど低粘度のペースト状の食形態です。一方、咽頭期では、誤嚥を予防するため、ヨーグルト、ゼリーなど高粘度のペースト状の食形態が嚥下開始食として用いられます。液体は咽頭で散らばり、最も誤嚥しやすいため、とろみを付けます。とろみのある液体は咽頭でまとまって、咽頭への流入速度が遅くなり、誤嚥を防ぐことができますので、誤嚥の危険の大きい場合には、お茶、みそ汁に増粘剤を付加します。

 4.食事時の一口量・摂取ペース

 一口量が多すぎて誤嚥する場合、小さいスプーンや箸を使用することで物理的に一口量を制限します。摂取ペースが速いと、咽頭残留があるのに次々に摂取してしまい、咽頭残留が増加して誤嚥を来してしまうことがありますので、摂取ペースが速くならないように心掛けます。

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 次回もリハビリテーションについての続きです。

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