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心不全一因、福島医大グループが世界初解明 治療開発に期待

07/18 07:00

研究グループの市村祥平氏(右)と三阪智史氏

 「好中球細胞外トラップ」現象

 福島医大医学部循環器内科学講座の市村祥平医師(大学院生)、三阪智史講師、竹石恭知教授(医大病院長)らの研究グループは、心不全の発症や悪化を防ぐ新たな治療法につながる研究に成功した。白血球の一種「好中球」の「細胞外トラップ」という現象が心不全の一因となることを世界で初めて解明。この現象を起こさないようにする阻害薬など、心疾患の死因の約4割を占める心不全の新たな治療法の開発が期待できるという。

 医大が17日発表した。細胞外トラップは、好中球の細胞内に含まれるDNAやたんぱく質を細胞外に放出する現象。本来は細菌から体を守る防護機能を発揮するが、防護機能の範囲を超えて攻撃してしまう面もあり、近年は循環器病や自己免疫病、がんなどの病態との関連性が示されている。

 研究グループはこの好中球細胞外トラップと心不全との関連性を調べた。その結果、心不全患者62例のうち約半数の30例が好中球細胞外トラップを有していた。好中球細胞外トラップを有する患者は有さない患者と比べ、心臓機能の指標の「左室駆出率」が低く、心不全のマーカーの「B型ナトリウム利尿ペプチド」が高値を示した。これは好中球細胞外トラップの存在が、心臓の機能低下と関連することを表しているという。また、好中球細胞外トラップを有する患者は、将来の心不全による入院や心臓死、補助人工心臓植え込みといった症状の悪化につながることも分かった。

 さらに、研究グループは、マウスを用いて分子を解析。その結果、好中球細胞外トラップの形成が心筋細胞内でエネルギーをつくっている「ミトコンドリア」の機能障害を引き起こすことと、好中球の「ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4」という分子を欠損させることで、好中球細胞外トラップを抑制し、心臓の機能低下を防げることが分かった。研究成果は、米国科学誌にオンライン掲載された。

 市村、三阪の両氏は「心不全は高齢化社会の中で増えており、病態解明に基づいた新たな治療開発が望まれている。苦しんでいる患者が多い中で新たな治療標的になり得る現象を明らかにした点と、そのメカニズムを分子レベルで解明した点に意義があるのではないか」としている。 

 心疾患死因の4割占める

 心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって命を縮める病気。さまざまな原因疾患により心臓の機能が低下し、心不全をいったん発症してしまうと5年生存率は約50%とされる。高齢化に伴い増加しており、国内の心不全患者は120万人、国民の100人に1人といわれている。心疾患の中で最も多い病気で、心疾患による死因の約4割を占める。県民の心疾患による死亡率(2020年)は都道府県別で男性がワースト8位、女性がワースト10位と下位にある。一方、県民の心不全に特化した発症登録のデータはなく、竹石氏は近年の増加傾向も踏まえ発症登録の必要性を指摘している。



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