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【新まち食堂物語】肉と魚の定食屋 はこざき・いわき市 魚も肉も素材を生かす

09/29 10:30

  • 動画付き
明るく清潔な店内で笑顔を見せる店主の裕充さん(右)と妻の美和子さん(矢内靖史撮影)
人気の「とろ鯖塩焼き定食」と「豚ヒレ・鯵フライ定食」

 滋味豊かな海の幸が目を引くいわき市小名浜。地域柄、人々の会話には魚の話題が上ることが多く、その関心の高さがうかがえる。「肉と魚の定食屋はこざき」は、この地で創業して3年。歴史は浅いが、この店の味を求めて地元の常連客のみならず県外から多くの客が訪れる。

 55歳で「脱サラ」

 店の一番人気は「とろ鯖(さば)塩焼き定食」。地元加工業者から直接仕入れた新鮮で脂ののったサバを片面4分ずつ強火で焼き、外側に焼き目を付ける。味付けは塩のみ。ふっくらとした身に箸を入れれば客の口元が緩む。肉質は柔らかく、口当たりはなめらか。魚も肉も余計な味付けはしない、素材の味を生かしたシンプルな調理法がこの店の特徴だ。

 「ここに来れば間違いない、と思ってもらえるような店を目指している」と話すのは、店主の筥崎(はこざき)裕充(ひろみつ)さん(60)。55歳で脱サラし、妻の美和子さん(57)と共に2021年6月に店をオープンした。今年で結婚30年。寡黙で口下手な裕充さんを補うように、明るく社交的な美和子さんの声が店内に響く。「自分が届かないところに気配りの手が届く」と夫は妻への感謝を口にする。

 開店は午前6時

 個人経営には珍しく開店は午前6時。創業前に24時間営業の全国チェーン店の客足を観察して決めた。「午前5時までは客足はまばら。6時になると動き出す」。早朝にもかかわらず、大型トラックの運転手や釣り人、観光客などの需要に応じる。

 「人に負けるのが嫌い。おやじに似たのかな」。少し照れくさそうに語る裕充さんの父の故光司さんは名の知れた漁師だった。キンキやメヌキ、タラなどを船いっぱいに港に運び込む父の姿は少年時代の裕充さんの憧れだった。「他の船が一度の漁で3回操業するところ、おやじは4回操業した」と振り返る。「人と同じことをしていては駄目だということを、おやじの背中から教わった」

 将来は漁師になるものと本人も周囲も思っていたが、高校時代の反抗期が違う航路へかじを切らせた。「東京に出たい」と選んだ都内の乳業メーカーで4年間勤務。その後「漁師になろう」と地元に戻ったが、父から「船はこれから不景気になる。別な道を選べ」と予想外の言葉をかけられた。父の助言にうなずきながらも「やはり魚に関わる仕事に就きたい」と、いわき市の水産物卸売会社に就職。ここで日本をはじめ、世界中の「うまい魚」を32年間、魚店やスーパーに届け続けた。

 そんな目利きの裕充さんだが、魚や肉、コメの仕入れは信頼する業者に一任する。「お互いにプロ同士。頼れるところは頼る」。店に届く厳選された食材の味を生かそうと、調理の試行錯誤には余念がない。

 仕入れを工夫し、価格を限界まで抑えた。会社勤めの頃の懐事情を思い返して設定した良心価格に「周りからは(価格を)上げたらと言われるが、お客さんに『おいしい』と言ってもらえるだけで満足」。裕充さんの第二の人生の航海は始まったばかり。良しあしの分かる店主が今日も自慢の料理を振る舞う。(木村一幾)

お店データ

■住所 いわき市小名浜吹松16の30

■電話 050・1138・1552

■営業時間 午前6時~午後2時。火、金、土曜日は夜の部(午後5時~同7時30分)あり。※ご飯がなくなり次第終了

■定休日 水曜日

■主なメニュー

▽刺身定食=1000円

▽とろ鯖塩焼き定食=1000円

▽金目鯛開き定食=1300円

▽焼肉定食=900円

▽豚ヒレ・鰺フライ定食=1000円

 朝だけメニューも

午前6時~同9時半は「朝だけメニュー」があり、ハムエッグ定食(550円)あじ開き定食(700円)かけうどん(330円)などを提供している。「一日の健康は朝食から」と裕充さん。温かい料理で頑張る人々の一日の始まりを支えている。

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

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