町を挙げて400年の伝統を受け継ぐ―。川俣町が無形文化財に指定する「山木屋八坂神社三匹獅子舞」が6日、同神社で奉納される。東京電力福島第1原発事故の影響で避難を余儀なくされた山木屋地区では、後継者不足で獅子舞の存続危機に直面しながらも、町の協力で地区外から担い手を募るなど奔走。郷土芸能を守ろうと、小中学生3人が名乗りを上げた。
山木屋地区は13年半前の原発事故により町で唯一避難を経験。現在は約330人が暮らしているが高齢化が進み、帰還率は26%にとどまる。その上、山木屋獅子舞を担う子どもたちは6年に1度、世代交代を必要とする。昨年までは山木屋の住民で実施できたが人材確保が難しく、町教委などは「山木屋だけでなく町が一体となり文化を守る」と決意し、昨年から今年にかけて町全体で担い手を募集した。
手を挙げたのは川俣中1年の高橋陸斗さん(13)をはじめ、ともに川俣小5年の菅野岳さん(11)と横田知佳(ともか)さん(10)。それぞれ「太郎獅子」「次郎獅子」「牝(め)獅子」を務め、舞をお披露目する。
3人は山木屋出身ではないが、町の文化継承に貢献したいと自ら志願したという。9月に入ってからは連日猛練習を積み、過去の獅子舞経験者に教えてもらいながら舞を習得。3獅子の息もぴったり合ってきた。
高橋さんは部活や勉強で多忙な合間を縫って練習を重ね、菅野さんは持ち前の明るさと体力で場を和ませる。横田さんはピアノなどを習っているが踊りはほぼ初挑戦で「歴史が好きで、自分も担い手になりたい」と目いっぱい体を動かす。地元住民によると、山木屋獅子舞を女性が担うのは長い歴史上初めてだという。
保存会の菅野清一会長(73)は「(獅子舞の文化は)町にとっては宝。文化としての価値が高く、継承する子どもがいるだけでも喜び」と胸をなで下ろす。菅野会長によると、県内には約200の三匹獅子舞があるが、どの地区も後継者不足により年々数が減っているという。新しい文化継承の方法も模索しながら、町全体で伝統を受け継ぎ、守る覚悟だ。
当日は午前9時半から三匹獅子舞が披露される。本番前の最後の練習を終えると、菅野会長は「自信を持ってやってきたことを信じて」とエールを送った。3人は「万全で完璧な舞を見てもらいたい」と意気込んだ。(南哲哉)
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山木屋八坂神社三匹獅子舞 豊作や悪霊払いを祈願するため、山木屋地区に代々受け継がれてきた郷土芸能。江戸時代後期に始まったとされる。以前は家系の長男だけが獅子舞を務めることができた。八坂神社への奉納は毎年10月第1日曜日。1964年に町無形文化財に指定。原発事故後、避難指示が解除された2017年に奉納を再開した。その後、新型コロナウイルスの影響で中止もあったが、22年から再び奉納している。