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Xに公開、大きな反響 91歳父との日常を漫画に、福島市の深谷陽さん

10/10 10:00

父巌さん(右)との暮らしを漫画にしてXで公開している深谷さんと愛猫のすばる。「食事を作り父と食べる暮らしは、ちょっと楽しい」と話す
漫画「父と暮らす」の一場面。巌さんが買ってきたシイタケから親子の会話が弾む(深谷さんのXより)
漫画「父と暮らす」の、母を自宅に連れて帰るかを相談する場面(深谷さんのXより)

 「椎茸(しいたけ)を買って来たよ」と報告する91歳の父。一緒に暮らす息子が「これは立派だから味噌(みそ)汁よりソテーだね」と夕飯の支度に取りかかる。福島市の漫画家深谷陽(あきら)さん(57)は、父巌(いわお)さんとの2人暮らしの日々を漫画に描き、「父と暮らす」のタイトルで8月からSNSのX(エックス)(旧ツイッター)に公開している。シンプルな絵柄で表現される穏やかで優しい親子のやりとり。深谷さんは「日々の何でもないことを淡々と描いていけたら」と話す。

 母の死、実家戻る

 深谷さん親子の2人暮らしが本格的に始まったのは昨年3月。その前年に妻を亡くし1人になった巌さんをサポートしようと、深谷さんが東京から実家に戻った。巌さんは「心強いです。妻の死後、夜中に具合が悪くなったらどうしようと不安で眠れなくなったことがあります。話し相手もいませんでしたから、ずいぶん救われました。しかし本人のためにならないのでは」と気遣うが、「漫画はどこでも描けるので」と深谷さん。連載漫画の執筆や東京での大学講師の仕事をしながら、食事作りや病院の付き添いなどで巌さんを支えている。

 「父と暮らす」は、1ページ読み切り作品。「何のためになどと意味は深く考えずに、一番身近な題材を描いてみました」と話す通り、内容は、巌さんが居間で仏壇が見える場所に座る理由、おいしいおかずを仏壇の母に供える巌さん、親子で励む園芸作業など、日常の一こまばかり。ちょっと面白かったことや目に付いたことを隙間時間に描いているといい、公開と同時に大きな反響があった。母が亡くなった際に自宅に連れてくるかどうかを2人で話す回には、共感した人々から「うちはこうした」「こうしたかった」など具体的なコメントが多く届いたという。

 以前から、深谷さんは2人暮らしの食事の写真をSNSで紹介している。巌さんの健康を考え、作るのは野菜多めの和食が中心だ。夜は2人で楽しむ晩酌のお酒と、つまみも並ぶ。「父は何事も楽しむタイプ。何を作っても『これはおいしそう』『ごちそう』と言って食べてくれる。食事を作り、父と食べる暮らしは、ちょっと楽しいです」

 仲間の愛猫も

 2人暮らしに欠かせないもう1人の仲間として漫画やSNSに登場するのが、猫のすばる。巌さんの妻の晩年に寄り添ったすばるは、今は深谷さん親子の間の「いいクッション」になってくれているという。「2人きりだと互いの話題しかなくて気詰まりかもしれないけど『すばるはどこにいるかな』などと共有して話す材料があるのがいいです」と深谷さん。巌さんも「寝床に起こしに来ることもあり、すばるが私たちを世話しているつもりなのかもしれません」と笑う。

 巌さんは自身の元気の理由を「おしゃべりがいい影響を与えてくれている」と分析する。外に出るきっかけに、と始めた囲碁クラブや囲碁教室通いで多くの人と交流することも、生活の張り合いになっている。自身が漫画に登場することについては「今の課題が見える、筋が通ったものになるといいです。どこにでも高齢者はいます。身近にもこういう家があるなあ、と興味を持って読んでいただけたらいいなと思います」と話す。

 「面倒を見ているという感覚は今はないです。しかし高齢なので「『ああ、きょうは普通に一日を終えた』と心配したり安心したりしながら暮らしています」と、深谷さんは父を見守りながら、2人と1匹の時間を漫画に書き留めている。「この漫画がもし本になったら、『お父さんの漫画が本になったよ』と見せられたらうれしいです」

 深谷陽さんのXはこちら

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