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【東日本台風5年・教訓と課題(上)】平下平窪4人犠牲

10/11 10:05

東日本台風の際に決壊した堤防の上に立つ江尻さん。「もう地域から犠牲者を出したくない」と言葉に力を込める=いわき市平下平窪
いわき市平窪地区で行われた救助活動の様子=2019年10月13日(いわき市提供)

 本県などに甚大な被害をもたらした東日本台風の上陸から12日で丸5年となる。各地で短時間に激しい雨が降り、県内では阿武隈川や夏井川などの流域で浸水被害が多発。関連死8人を含めて40人が死亡した。各地で記録的な被害を残した台風の経験を生かそうと動く人たちを取材した。

 「何とか助けたかった」。東日本台風発生当時、いわき市の平31区(平下平窪)の役員だった江尻光芳さん(72)は悔しそうに当時を振り返る。

 2019年10月12日から降り続いた大雨の影響で、同市平下平窪地区では夏井川の堤防が決壊。広い範囲が浸水し、同地区の高齢者4人が逃げ遅れ、犠牲となった。5年が経過しようとする今、江尻さんは思いを強くする。「災害時に高齢者が被害に遭わないためには、早期避難が何よりも重要だ」

 江尻さんによると今年4月時点で、下平窪地区の1813世帯のうち65歳以上の高齢者のみの世帯は209世帯。体が不自由だったり、運転免許を返納したりした高齢者が避難する場合、近所の人が避難所まで車に乗せていくなどの手助けが必要となるケースが想定される。だが、支援している人が誤って高齢者にけがをさせてしまう不測の事態も起こり得るため、江尻さんは「支援者を対象とした保険があれば、より積極的に助けることができる」と意見を述べる。

 北上市が先進地

 こうした問題意識から「避難支援者保険」を導入したのが、岩手県北上市だ。避難支援者として登録された人を対象とした保険に市が加入し、支援者が他人にけがを負わせてしまったり、物を壊してしまったりして損害賠償責任が発生した場合、保険会社から保険金が支払われる。

 今年6月に制度がスタートし、避難支援者として登録した人は現在約600人に上るという。制度導入に尽力した北上市地域福祉課の佐藤大輝主任(35)は「支援者が安心して活動できる環境をつくりたかった」と狙いを語る。

 早期避難の実現には、避難しやすい制度づくりとともに、人々の避難を巡る意識改革も欠かせない。今年8月16日、いわき市は非常に強い勢力で北上した台風7号の接近に伴い市全域に避難指示を出した。結果的に市内で大きな被害はなかったが、江尻さんが家族と共に向かった避難先の体育館には約60人の避難者が集まったという。「多くの水害を経験し、市民の早期避難の意識は高まっているのかもしれない」と分析する。

 台風から5年となる12日、江尻さんは区役員や地元消防団員らと共に応急給水所の扱い方を学ぶ訓練を行う。あの日の教訓を生かしたいという強い思いがある。「地域から災害の犠牲者を出さない。それが一番大事だと思っている」

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