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【震災13年7カ月】リスク判定、捕獲強化 サル被害防止へ県が動態調査

10/11 12:30

「深刻だ」とサル被害を語る相馬さん。電気柵を設置した畑では被害はなかった

 東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出された12市町村で、ニホンザルによる農作物の食害が相次いでいる。東日本大震災から13年半が経過し、生息範囲や個体数は拡大していると推定される。住民の帰還や営農再開に向けて対策が重要となる中、県は初の動態調査や捕獲体制の整備に乗り出している。

12市町村に2600頭

 原発事故に伴う避難の長期化により、ニホンザルの生息域が拡大し、生活被害や帰還意欲低下などの影響が懸念されている。県は避難指示が出るなどした12市町村を広域的に捉え、初の動態調査や捕獲体制の整備に乗り出している。年内に対策指針を策定し、来年度から優先順位の高い群れの捕獲を強化していく。

 復興庁によると、2022年度に行った調査で避難12市町村にサルの群れは42あり、計2600頭が生息していると推定された。

 00年代まで生息地は南相馬、浪江、飯舘の3市町村が中心だったが、避難の長期化に伴い、サルの活動範囲が南方に拡大。新しい群れが複数見つかり、頭数も増加傾向にあるとみられる。 

住民帰還に影響

 サルの増加は住民帰還にも影を落とす。浪江町の23年度住民意向調査では、帰還をためらっている避難者の約2割が鳥獣被害への不安を理由に挙げた。住宅の屋根や農作物に被害をもたらす上、攻撃・威嚇への恐怖も働いたとみられる。帰還者の半数も有害鳥獣対策の強化を望んだ。他の自治体でも類似の傾向がある。

群れの動き把握

畑近くでナスを食べる野生のサル=飯舘村(県提供)

 このため県は、特定復興再生拠点区域(復興拠点)を中心に初の動態調査を始める。捕獲したサルに衛星利用測位システム(GPS)を取り付け、群れの動きを正確に把握。人に危害を加えるリスクを1~5段階で判定し、危険度の高い群れは全頭捕獲も視野に入れる。

 年々減少傾向にある捕獲の担い手も課題だ。12市町村の捕獲者は58%が70代以上で、他自治体と比べて約10ポイント高い。県は地域おこし協力隊や避難地域鳥獣対策支援員、専門事業者ら外部人材の活用の場を広げ、捕獲体制を整備する考えだ。

 県は広域的な対応策を盛り込んだ指針を年内に策定する方針。学識経験者や自治体担当者と作業部会を設置し、検討を進めている。

          ◇

南相馬 電気柵設置し対抗、根本的解決方法手探り

 南相馬市では、震災と原発事故の影響で住民が避難でいなくなった時期もあり、震災後は、これまでサルが出没していなかった平野部でも確認されるようになっている。

 飼料用トウモロコシを栽培する南相馬市小高区の相馬秀一さん(49)は「深刻だ」と被害の現状を語る。震災前はサルを見たこともなかったが、震災後、畑では毎年50万~60万円の被害が出ており、多い年は100万円近くになることもあるという。サルが餌を食べることで子どもの数も増えかねないほか、トウモロコシが倒されるという心配もある。山に近い畑では今年、本格的に電気柵を設置したため、幸い大きな被害はなかったが、サルは常磐道を越えてより東側の畑や、ほかの住宅の家庭菜園を食い荒らすようになっているという。

 市では、わなを仕掛けてサルを捕獲し、昨年は163頭を焼却処分した。農業被害対策として電気柵の設置や、果樹の伐採にかかる費用の補助もしている。これらの効果もあり、農業被害は減少傾向にあるが、サルの生息数が減少しても、群れが分裂するとかえって活動範囲が広がり、被害が増える恐れもあり、油断できない状況だ。

 農業被害だけではなく、サルが庭や屋根の上にいることに不安を感じている住民もおり、市の担当者は「サルの行動域を調査し、サルと人間の生息域が重ならないよう対策していきたい」と話した。

営農再開の畑狙ったか

 県が取りまとめた直近2018~22年度の浜通りにおけるニホンザルの農作物被害金額は【グラフ】の通り。調査対象は家庭菜園を除く販売用の農作物で、主に野菜類の被害が多い。

 県によると、22年度に被害額が多かった理由の特定は難しいとした上で、サルの生息域の拡大のほか、原発事故に伴う避難地域での営農再開で販売を目的とした作付けが進み「被害を受けやすくなっているのでは」(環境保全農業課)と推察した。

 運動能力高く対策特に困難

 県によると、野生鳥獣の中でもサルは運動能力が高く、対策が難しいという。県は電気柵などの整備に必要な経費補助や専門業者による生息状況調査、市町村への専門人材の配置の支援を進めている。県は「一つの対策で効果はなかなか上がらない」と指摘した上で「電気柵の設置や被害を及ぼすようなニホンザルの捕獲など総合的に組み合わせることが必要」とした。

復興庁がハンドブック

 復興庁は、避難指示が出るなどした12市町村の自治体職員らが効果的なニホンザル対策を実施できるよう、手引書「福島12市町村ニホンザル対策ハンドブック」を作成し、サルの生態や捕獲、防除対策などを紹介している。

 手引書によると、12市町村に生息しているサルの分布は拡大傾向にあり、個体数は増加していると推測されるという。除染や社会インフラの整備など、帰還する住民の生活環境整備に合わせ、人の生活空間に出没するサルを排除して被害を防ぐことが重要となっている。

 手引書に基づくサルの生態は【図】の通り。サルはイノシシに比べて行動範囲が広く、群れによって被害の発生状況や人への慣れ具合が異なる。手引書ではサルの生態を踏まえ、被害防除対策と捕獲を同時に実施する必要があると指摘。無計画に捕獲すると群れの分裂などが懸念されることから、モニタリングに基づき計画的に捕獲するよう求めている。

 防除対策については、柿や栗など果樹の伐採のほか、ロケット花火などを活用した追い払い、被害状況に応じた個別柵の設置などを紹介している。

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