今回は脳卒中後の合併症の一つ、肺炎についてお話しします。脳卒中後の肺炎には誤嚥性肺炎と沈下性肺炎があります。今回は、最も重要で重症になりかねない誤嚥性肺炎を中心にお話しします。
1.誤嚥性肺炎
誤嚥とは、食物、液体、唾液、胃内容物が誤って気道に入ることを指します。誤嚥性肺炎とは、口の中や咽頭からの内容物が気道に入り、肺に達して引き起こされる細菌による感染症です。脳卒中後の方は、しばしば嚥下反射や嚥下の協調運動が低下することで嚥下機能が障害される合併症を有しており、これが誤嚥性肺炎の主なリスク要因となります。
ここで正常な嚥下の解剖学的機能について説明します。嚥下は、口腔、咽頭、食道、気道などの複数の構造が連携して行う複雑なプロセスです。嚥下の過程は、以下のような相に分けられます=図。
「口腔相」:口の中に入った食塊は咀嚼されて唾液と混じり、嚥下反射の準備をして、舌が食塊を咽頭へ運ぶ役割を果たします。
「咽頭相」:咽頭に送られた食塊は鼻腔に逆流しないように反射が働き、咽頭の筋肉が収縮します。また、気管と食道の間にある喉頭蓋が倒れて、気管を塞ぎ、食塊が気管に流れ込まなくなり、食道へ送り込まれていきます。図で示したように解剖学的に前方に気管、その後方に食道があります。通常、食塊は気管には全く入らず食道に送り込まれます。万が一、唾液や食塊が気管に入ると通常は激しくむせたり、せき込んだりします。
「食道相」:食道に送られた食塊は食道の蠕動運動により、胃の中に送り込まれます。
2.誤嚥のメカニズム
(1)嚥下反射障害
脳卒中後はこれら一連の嚥下反射機能が低下して、嚥下障害を引き起こし、食物や液体、分泌物が誤って気道に入ってしまい、これが肺に到達して感染症を引き起こします。これが誤嚥性肺炎です。
嚥下障害は脳卒中患者の30~60%にみられるといわれます。特に脳卒中の急性期に発生率が高くなり、嚥下障害を引き起こすと、十分な水分補給や栄養摂取が困難となり、さらに肺炎のリスクが上昇します。実際、嚥下障害のある脳卒中患者さんは、嚥下障害のない人に比べて、3~11倍も誤嚥性肺炎を発症するというデータもあります。
(2)気道の防御機構障害
気道の蓋をする喉頭蓋の機能不全や声帯閉鎖不全により、誤って食物や液体が気道に入ることがあります。喉頭蓋が適切に閉じないため、誤嚥が起こりやすくなります。
(3)口腔内の不衛生
口腔内には通常、細菌が存在しています。口腔内の衛生状態が悪いと口腔内の細菌が増殖し、誤嚥した際にこれらの細菌が肺に入り込み、感染を引き起こします。適切な口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防に重要です。
(4)胃内容物の逆流
逆流性食道炎や消化管の運動障害により、胃の中の食べ物や胃液が逆流し、これが気道に入り込むことがあります。それらが肺炎の原因になったり、また、胃酸が含まれるため、化学的な肺組織の損傷も引き起こしたりもします。
これは沈下性肺炎と呼ばれるもので、これは感染症ではなく、主に胃酸や食物粒子による直接的な肺組織の損傷が原因です。沈下性肺炎は、症状の発現が迅速であり(数分から数時間以内)、通常は24~48時間以内に自然に解決します。抗生物質は一般的に使用されず、酸素療法や吸引などの支持療法が行われます。
(5)免疫力低下
脳卒中後の人や高齢者や慢性疾患を持つ患者では、免疫機能が低下しているため、気道や肺に入った病原菌に対する防御能力が低下しています。これにより、肺の感染が成立しやすくなります。
3.誤嚥性肺炎の症状
誤嚥性肺炎の症状には、咳、発熱、呼吸困難、胸痛などがあります。これらの症状は、気道に入り込んだ物質によって引き起こされる炎症反応および感染に関連しています。誤嚥の事象が確認されなくても、臨床歴と画像診断(例えば、胸部X線やCTスキャン)によって診断されることが一般的です。
◆ ◆ ◆
次回も誤嚥性肺炎についてお話しします。