福島大食農学類付属発酵醸造研究所は、コメの品種改良を巡り、遺伝子の組み合わせによって地域の気候に合った出穂期を調節できることを科学的に解明した。「コシヒカリ」発祥の福井県がこれまで育成した水稲品種252系統をゲノム(全遺伝情報)解析し、育種家の経験と勘に基づく品種改良のノウハウの科学的根拠を示した形だ。同大は研究成果を応用し、本県で進めている高温耐性品種などの開発に生かす。
研究所の菅波真央特任講師が13日の定例記者会見で発表した。研究は、1947年から約80年にわたり「コシヒカリ」など多くの水稲品種を育成している福井県農業試験場と共同で実施。同試験場が育成した主食用米の252系統について、収量や品質に大きく影響する「出穂期」の調節遺伝子を分析した。
その結果、四つの遺伝子を組み合わせることで、地域に適した出穂期を示す品種を育成できることが分かった。例えば「コシヒカリ」など食味の良さを目指して育成された多くの品種では、出穂を早める型と遅らせる型とを組み合わせることで気温が高く日照時間も長い時期に出穂期が調整されており、品質や収量の良さにつながっていることが判明した。
同大によると、特定地域の育種の歴史をひもとき、地域に最適な品種を育成してきたプロセスを解明した研究は世界初という。研究成果は10月25日付で植物科学分野の英文科学誌に公開された。
コメの栽培を巡っては近年、猛暑による品質や収量の低下が課題になっており、県内でも県農業総合センターなどが高温耐性品種の開発を進めている。気候変動に対応した品種の育成にとって出穂期の調節は有効な対策の一つのため、研究を応用すれば、品種改良の工程に入る前に最適な出穂期となる遺伝子の組み合わせの予測が可能になり、労力や時間をかけずに精密な調節ができるようになるという。菅波氏は「研究成果を生かし、新品種の育成に向けて連携を強めていきたい」と述べた。