【11月22日付社説】年収の壁見直し/丁寧な制度設計欠かせない

11/22 08:00

 税と社会保障に関わる重要な課題だ。政府と国会には、丁寧な制度設計が求められる。

 自民、公明、国民民主の3党は、年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の引き上げを政府の経済対策に明記することで合意した。非課税枠の上げ幅は今後協議される。

 年収が減るため「働き控え」の要因となっている主な壁は103万円の他、年金や健康保険の支払いが生じる106万円と130万円がある。前者は税、後者は社会保障に関わる制度だ。

 最低賃金が上昇しており、パート従業員らがそれぞれの壁に達する就業時間は短くなっている。物価高でも就業を抑えざるを得ず、生活が苦しい人は少なくない。一方、企業にとっては働き控えが人手不足の一因となっている。

 働く意欲のある人の就業を抑制し、低賃金にとどめる現在の仕組みは非合理な面がある。103万円の壁の見直しは必要だろう。

 配偶者の場合は特別控除があるため、150万円までは税負担が軽くなる。特別控除を知っているか、いないかの違いで手取りに差が出る。他方、学生には特別控除はなく、103万円を超えると扶養する親の手取りが大きく減る。

 103万円の壁とは別に、厚生労働省は、社会保険料の支払いが生じる106万円の壁について、基準額などの要件撤廃を検討している。見直されれば週20時間以上働く人の大半は、年収を問わず厚生年金に加入することになる。

 例えば扶養家族となっているパート従業員の場合、基礎年金に厚生年金が積み上がることで老後の給付が手厚くなる利点がある。ただ、目先の手取りは減る。

 年金制度への不信感は根強く、壁の見直しで働き控えが解消されるかは不透明だ。政府と国会は、税と社会保障をかみ合わせ、生活が安定し、多くの人が負担を分かち合える制度へと抜本的に改革する必要がある。

 国民の要求通り、所得税の非課税枠を178万円に引き上げれば、税収が国と地方合わせて7兆円以上減ると試算されている。しかし、国の税収の1割に相当する財源をどう確保するか議論は深まっていない。また一律に引き上げると高額所得者ほど減税効果が大きく、格差が広がるとされる。

 103万円の壁見直しは、少数与党となった自民、公明が補正予算を通すために、国民の主張をのみ込んだ形だ。党利党略を優先した拙速な見直しで、社会に新たなひずみを生み出すようなことがあってはならない。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line