国民の不安や不信感はいまだ解消されていない。廃止に突き進むのではなく、理解醸成と現場の混乱を招かないために十分な時間を確保することが重要だ。
マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」への移行に伴う、現行の健康保険証の廃止期限が12月2日に迫っている。発行済みの保険証は最長1年間は使用できるが、期限以降は新規に発行されない。
健康保険証の廃止はマイナカード取得の事実上の義務化だが、10月末時点でカードを取得したのは国民全体の7割程度にとどまる。厚生労働省によると、カード保有者のマイナ保険証の登録は8割に上るものの利用率は低調だ。本県の利用率は2割に届いていない。
背景には情報漏えいなどへの不安があるようだ。カードのICチップに病歴などの情報は記録されていないため、カードを紛失しても医療関連の情報漏えいの可能性は低いが、保有者の半数は常に携行していない。マイナンバーと保険証のひも付けミスが相次いだことも国民の不信感につながっているとみられる。
マイナ保険証は医師が薬の処方歴や特定健診の結果を見て、治療に生かせるなどの利点がある。こうした安全性や利便性について理解を得られていないことが、利用率低迷の要因なのは明らかだ。政府は現行の健康保険証の使用期間を延長するなどして、国民の理解を得る取り組みを強化すべきだ。
マイナ保険証をめぐっては、通信障害などのトラブルが懸念されている。全国保険医団体連合会が実施した調査では全国の約1万3000の医療機関のうち、7割の医療機関でカードを端末で読み取れない、表示された情報が文字化けした―などを経験している。多くの医療機関は、患者が持ち合わせた現行の健康保険証で医療保険の資格などを確認したという。
通信障害などが長時間続けば、現場の混乱は避けられない。トラブル発生時などを見据え、9割近くの医療機関が健康保険証の存続を求めている。政府は複数のトラブルが同時に発生することなどを想定し、医療行為に支障を来さないよう対策を講じる必要がある。
マイナカードに運転免許証機能を持たせた「マイナ免許証」が来年3月に導入される。こちらは導入後も従来の運転免許証が使え、両方を持つことも可能だ。一部の外国で現地での運転に従来の免許証が必要なことが考慮された。運転免許証は可能で、なぜ健康保険証ではできないのか。政府には国民が納得できる説明を求めたい。