• X
  • facebook
  • line

【12月22日付社説】12市町村のため池/環境回復を営農再開の力に

2024/12/22 08:15

 東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出された12市町村で、農業用ため池の放射性物質対策が進んでいる。福島民友新聞社の調べでは、本年度内に計画の約8割のため池で対策が完了する見通しになっている。

 浜通りを中心とした12市町村のため池では、原発事故により放射性物質を含んだ土壌が堆積し、用水を適切に管理する取り組みの妨げとなっていた。このため、国はため池の底にある土を乾かし、放射性物質が1キロ当たり8千ベクレル以上含まれている場合には、土壌を取り除く対策の対象とした。

 県によると、対象になったのは葛尾村を除く11市町村の561カ所に及んだ。対象のため池がある市町村では、池の形状などに応じて工法を選択しながら土壌の除去を進め、これまでに6市町村で完了した。残りの5市町村でも、南相馬市では全てのため池、大熊町と富岡町では避難指示が解除された地区のため池について、年度内に終了する状況だ。

 ため池の放射性物質の除去を開始したのは2013年度からで、関係市町村は地道におよそ10年をかけて環境回復を図ってきた。各市町村は対策が完了したため池を貴重な水源として活用し、地域農業の継続、そして避難指示が解除されて間もない地区の営農再開につなげていくことが重要だ。

 南相馬市では244カ所が対策が必要なため池だったが、このうち23カ所については一度は対策が終了したものの、19年の東日本台風で土砂が流入して放射性物質の数値が上がったため再対策を実施した。浪江町でも大雨が原因と考えられる数値の上昇が確認されたため、5カ所で改めて池の底の土壌を取り除いた。

 気候変動で災害級の大雨の頻度が増えており、ため池に大規模な土砂が流入するリスクはゼロではないことから、自治体の中には今後も再対策に十分な後押しがあるかどうか懸念する声がある。国は、市町村が災害発生時にため池の調査や再対策に速やかに着手することができるよう、中長期的な支援の枠組みを構築してほしい。

 対策がまだ実施されていないため池の大半は、帰還困難区域内にある。帰還困難区域を巡っては、帰還する意思のある住民の宅地周辺などを除染し避難指示を解除する方針は決まっているが、ため池を含む農業関係の施設の取り扱いは不透明だ。

 国には、帰還者の営農再開の意思なども踏まえつつ、帰還困難区域のため池の再生の道筋を示していくことを求めたい。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line