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【11月1日付社説】コメの方針転換/需給予測の精度向上を急げ

2025/11/01 08:00

 価格が高止まりしている中、3カ月足らずでの方針転換は、拙速な印象が拭えない。政府には丁寧な説明を求めたい。

 農林水産省が2026年産の主食用米の生産量目安を711万トンに設定すると発表した。今年の収穫量見込みの748万トンから大幅な減産となる。コメ不足や価格高騰を受け、増産路線への移行を表明した石破茂前政権の方針を大きく見直した形だ。

 農水省によると、間もなく収穫が終わる25年産は、前年に比べ68万5千トン増となり、来年6月末の民間在庫量は229万トンと過去最大になる見込みだ。一方、需要量は訪日外国人による消費拡大などを踏まえても、今年と同じ水準に収まるという。減産への転換は、供給過剰による価格下落への生産者の懸念を重視したとみられる。

 しかし、政府が長年続けてきた生産調整を見直し、増産方針にかじを切ったのは今年8月だ。新政権の発足に伴い、政策を主導した石破前首相と小泉進次郎前農相が退任したとはいえ、短期間のうちに政府方針を改めるのは釈然としない。「令和の米騒動」をさらに混乱させることになりかねない。

 新政権で就任した鈴木憲和農相は「需要に応じた生産が原則だ」との考えを強調している。需給が均衡しなければ価格が安定せず、生産者、消費者の双方に深刻な影響を及ぼす。鈴木農相の考え方は理解できる。ただ、今回の米騒動の発端は、コメの不作と同時に、政府が需要量、供給量を正確に把握できず、備蓄米放出などの対応が後手に回ったのが背景にある。 農家の高齢化によりコメの生産量は減少してきた。国が減産を掲げることで農家の意欲をそぎ、生産基盤がさらに弱体化する恐れもある。需給予測の精度を高め、世界の食料需給の見通しなどを踏まえて慎重に判断すべきだ。

 鈴木農相は現在のコメの供給状況について「不足感は解消された」との認識を示している。確かに最近まで備蓄米が積まれていた店頭には新米が並び始めたが、価格は依然として高水準にある。

 農水省によると、全国の小売店の5キロの平均価格は4千円を超えている。新米の集荷競争が激しく高値で取引されていることが影響している。割安の備蓄米は年末ごろまで販売が続く見通しだが、流通量が減り、平均価格の引き下げ効果は薄れているという。

 鈴木農相は「おこめ券」の配布などを検討しているが、応急的な対応では限界がある。消費者が持続的に安心して購入できる仕組みづくりに知恵を絞ってほしい。

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