車の大量生産に必要な「型式指定」の認証制度を巡り、日本経済の中核を担う大手自動車メーカーの不正が横行していた。国産車に信頼を寄せるユーザーへの裏切り行為で、責任は極めて重い。
トヨタグループのダイハツ工業や豊田自動織機で不正が相次いだことを受け、国土交通省が自動車メーカーなどに要請した調査で分かった。国交省はきのう、不正が判明したトヨタ本社を立ち入り検査した。今後、他に不正が発覚したホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機に順次、検査に入る。
トヨタは、グループ会社で認証不正があったにもかかわらず、今回の調査に至るまで現場から不正の報告が上がってこなかった。業界全体としては、以前から起きている不正の教訓を生かせず、同様の問題を繰り返す形となった。
自動車メーカーの自浄機能は著しく欠如していると言わざるを得ない。法令や安全を軽視する悪弊を断つ契機とすべきだ。
トヨタなどがおととい開いた記者会見では、不正があった車種の安全性が強調された。試験での虚偽データの提出や試験車両の不正加工などが行われていたが、社内検証の結果、5社はいずれも安全性に問題はないとしている。
トヨタによる不正の中には、国の基準よりも高い水準で安全性を確かめていた事例があった。このように国の基準を無視した要因の一つに、自動車産業の国際的な競争が激しさを増す中、短期間での開発を求められる現場が、効率を重視して再試験の手間を省いた可能性があるとみられる。
自社の都合で認証制度をゆがめたことは許されない。自社の基準が高いから安全という論理そのものが、メーカーのおごりだ。
古い規定が残り、メーカー側に解釈を委ねるグレーゾーンの基準があるなど、認証制度の課題を指摘する声が出ている。制度が不正の言い逃れに利用されぬよう、国交省には、現場の実態を踏まえながら、安全性を確保できる仕組みへと見直すことが求められる。
不正によりトヨタ、マツダ、ヤマハが生産中の計6車種は出荷停止となる。自動車関連産業の裾野は広く、販売店や部品メーカーなど幅広い業種への影響が懸念されている。ダイハツの不正に端を発する産業基盤の衰退が、さらに悪化する事態に発展しかねない。
各メーカーのトップは、自社の不正が日本経済に及ぼす影響の大きさを自覚する必要がある。目先の生産再開しか念頭になく、抜本的な対策を打てないようであれば、信頼回復は遠い。