東京電力福島第1原発事故を経験した世代には、当時のことを覚えていない、知らない世代に対して、正しい情報に基づいて考え、議論できるための土壌を育んでいく責務がある。
東日本大震災・原子力災害伝承館と開沼博東京大大学院准教授らの研究チームが、本県と東京圏の高校生約900人を対象に第1原発事故に関しての理解度などを調べた。除染で発生した除去土壌などについて、国が2045年までに県外で最終処分すると法律に定めているのを知っている県内生徒の割合は3割弱で、東京圏と同程度にとどまった。
環境省が昨年行った20歳以上の調査では、最終処分の認知度は県内と県外で30ポイントの開きがあった。開沼氏は、20代以上とそれより下の世代には事故や震災への認識に差があると指摘し、県内に住んでいるからといって「事故などについて詳しいとの前提はなくなっている」としている。
県内で事故当時に暮らしていた子どもが事故などの正確な知識を持っていないとすれば、大人の側の教え方が十分ではなかったということだろう。
事故による避難者はいまだ県内外にいて、廃炉も終結が見通せない状況にある。18歳以下は、除去土壌の県外搬出などの課題に向き合うこととなる世代だ。過去の出来事ではなく、現在も抱えている問題として、事故について知ってもらうことが大切だ。
調査ではこのほか、第1原発でつくられた電気がどこで消費されていたかや除染の方法、事故の起きたメカニズムなどの認知度についても聞いた。電気の消費地や除染については、本県の正答率が東京圏を上回った。一方、原子炉が冷却できなくなり、燃料が溶け落ちたことを理解していた生徒の割合は東京圏が10ポイント以上高かった。しかし、いずれも正答率は5割を切っている。
調査後には、回答した生徒らが調査項目の内容についての簡単な講義を受けている。2週間後に事前通告なしに再調査を行った結果、誤答が多かった項目で正答率が9割を超えたという。正確な情報を教える機会を設けることの重要性を示すデータだ。
原発で生じた処理水の海洋放出の開始が難航したことや、県外での除去土壌の再生利用が実証実験ですら地元側の理解を得られず頓挫した背景には、誤った知識に基づく不安や拒否感などが影響している。県内外の若者が共通の理解に基づいて話し合える環境をつくっていくことが重要だ。