【7月25日付社説】感染症の行動計画/教訓踏まえ過ち繰り返すな

07/25 08:10

 国民の命と健康を守るため、新型コロナウイルス禍の反省と教訓を生かさなければならない。

 政府は重大な感染症への対応をまとめた新たな「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を閣議決定した。2013年に策定した計画を約10年ぶりに全面的に改定し、平時からの備えに重点を置いた。今後、計画に基づくガイドラインを作成し、具体的な対策や関係者の役割分担などを明記する。

 前計画では流行発生時の対策本部の設置、医療体制の整備、ワクチンの確保など、発生段階に応じて政府が取るべき対応がまとめられていた。しかしコロナ禍では政府の対応が後手に回り、保健所や医療機関の体制が整わず、入院できないまま亡くなる人もいた。緊急事態宣言を発令してもウイルスを封じ込められず、流行の波を何度も引き起こしてしまった。

 新型コロナの感染再拡大や新たな感染症の出現などが危惧されている。同じ轍(てつ)を踏むことは許されず、これまでの失敗や知見を踏まえて計画を見直すのは当然だ。政府は実効性が伴うガイドラインを作成し、未知のウイルスであっても初期段階で感染拡大を食い止められる体制を整える必要がある。

 新計画は「準備」「初動」「対応」の各段階に分け、水際対策や検査、まん延防止など13項目で対応を整理した。検査では平時から機器や資材を確保する。ワクチンの国内での研究開発の基盤強化、予防接種に関連する事務のデジタル化なども盛り込まれた。

 コロナ禍では病院などで集団感染が相次ぎ、病床や医療人材の確保がままならなかった。新計画には都道府県と医療機関が協定を結び、流行時に必要と想定される病床を確保することが明記された。

 病床の確保は、医療機関の経営とも密接に関連する。通常医療と両立させながら、流行の段階や感染者数に応じて柔軟に対応できるよう、都道府県と医療機関が平時から綿密に連携し、有事に備えていくことが求められる。

 平時でも医療現場では人材が不足している。計画では専門性の高い医師などを中長期的に育成していくことが示された。専門医だけでなく、住民に身近な開業医などの協力を得ていくことも大切だ。

 コロナ禍ではワクチンなどに関する情報も錯綜(さくそう)し、偏見や差別の問題なども生じてしまった。国民に正確な情報を迅速に伝え、適切な判断や行動を実践してもらうことが感染症対策の要となる。行政機関からの情報提供の在り方や国民への啓発についても改善を図っていかなければならない。

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