小中学校、高校の夏休みが始まった。既に目標を立てたり、スポーツや読書など何をするのか明確に決まったりしている人は、それにしっかりと取り組んでほしい。まだ何をしたいか決まっていないという人にぜひ試してみてもらいたいのは、自分と向き合う時間をつくることだ。
劇作家の鴻上尚史さんは近著「君はどう生きるか」(講談社)で、「本物の孤独」を経験すると「本当にしたいこと」に気付くことができると書いている。
本物の孤独は独りぼっちのことではなく、自分自身について一人で考えるほどの意味だ。鴻上さんは1週間の旅で一人の時間を過ごしたことで、懸命に仕事をしている最中には気が付かなかった、その仕事に抱いていた本音のような感情を認識できたという。
皆さんは普段、学校や学習塾に行ったり、友人と交流を深めたりで忙しい。近年は特に、携帯電話や交流サイト(SNS)の浸透で友人らとの連絡が取りやすくなったこともあって、自分だけの時間が確保しにくくなっている。鴻上さんはこうした状況を念頭に、自分と向き合うための方法として1日でも数時間でもスマートフォンなどの電源を切り、他の人との接触を断つことを勧めている。
夏休みは1年の中で最も自分で時間の使い方を決めやすい期間だ。その中で誰にも邪魔されない時間を意識的につくり、自分自身について思いを巡らすことで、自分でも気付いていなかった将来の夢など新たな発見があるはずだ。
人間関係など、一人では解決できない悩みに気付くこともあるだろう。しかし、それをSNSなどで知り合った大人に相談するのは避けるべきだ。そうしたところで出会う大人は、皆さんをよく知らない。適切なアドバイスは期待できないだろう。最悪の場合、その悩みにつけ込み、利用しようとしている恐れもある。
悩みが見つかったときは休みの間に、親や学校の先生ら、身近な大人に相談するようにしてほしい。親なども子ども時代には同じような悩みに直面した経験がある。加えて、普段から皆さんをよく観察している。適切なアドバイスをくれたり、どうしたらいいかを一緒に考えてくれる。
自分のやりたいことや、悩んでいることが分かれば、これから何に力を入れたり、注意したりすればいいのかはおのずとはっきりする。それは皆さんが想像するよりも、ずっと価値があることだ。「あの夏で自分が変わった」と思える、有意義な休みにしよう。