全ての働く人が賃金の上昇を実感できる環境を築き、経済の好循環につなげなければならない。
厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会が2024年度の最低賃金の全国平均を時給1054円とする目安額を取りまとめた。現在の1004円から50円(約5%増)の引き上げで、上げ幅は23年度の43円を上回り過去最大となった。金額も最高額だ。
47都道府県それぞれで設定する最低賃金は、経済情勢に応じて毎年改定される。目安額を受け、各都道府県の地方審議会が実際の金額を議論して決める。本県は目安額通りに引き上げられた場合、24年度は950円になる。
物価の高騰に歯止めがかからず労働者の家計は厳しい状況に陥っている。パートやアルバイトを含む全労働者に適用される最低賃金の引き上げは当然だ。
ただ、現在の最低賃金の水準では、フルタイム労働でも年収は200万円程度にとどまる。最低賃金はあくまでも下限額だ。政府は物価の上昇分を補えるよう、最低賃金の引き上げ以外の対策にも取り組む必要がある。
連合の集計によると、今年の春闘では大企業を中心に大幅な賃金の引き上げが相次ぎ、賃上げ率は33年ぶりの高水準となる5・1%になった。しかし従業員30人未満の企業を対象にした国の調査では賃上げ率は2・3%にとどまる。
立場の弱い中小零細企業は原材料費などの上昇分を価格に転嫁できず、人件費の捻出に苦労している。公正取引委員会は今年5月、下請法の運用基準を改正し、大企業などが取引価格を据え置く行為を「買いたたき」になる場合があると明記した。公取委は価格交渉などへの監視を強め、不当な取引に厳しく対処してもらいたい。
最低賃金の引き上げは経営者にとって大きな負担だ。しかし、低い賃金では人材の確保がままならず、事業の存続そのものが危ぶまれる。民間の調査によると、今年上半期、人手不足を要因とした企業倒産が急増している。
中小零細企業も国や自治体の支援制度を活用して設備投資などに取り組み、生産性を高めて利益を生みだし、賃上げや待遇改善につなげることが急務だ。
最低賃金は現在、最も高い東京都と最低の岩手県で220円の差がある。地域間格差はこの10年で15円広がっている。このままでは賃金の高い大都市部に労働者が流出し、地方の人口減少に拍車がかかりかねない。地域間の格差是正に向け、政府は地方の賃上げに重点的に取り組むべきだ。