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【8月9日付編集日記】風船

08/09 07:58

 正体不明の芸術家バンクシーの代表作に「風船と少女」がある。オークションの落札直後に裁断されたのをまず想起するが、反戦のメッセージを込めた同じモチーフの作品もよく知られる

 ▼それはイスラエルとパレスチナ自治区を隔てる分離壁に描かれた。いくつかの風船を手に持ち浮かび上がろうとする少女。壁を乗り越えて自由になりたいという現地の人の希望のように見える(「バンクシー」光文社新書)

 ▼風船は太平洋戦争末期に武器として使われた。米国を攻撃するために和紙を貼り合わせて作った気球に焼(しょう)夷(い)弾をつるし、いわき市などから放たれた。一部が米本土に渡り、現地の子どもらが犠牲になった。いわゆる風船爆弾だ

 ▼いわきで風船爆弾を題材にした現代アートが展示されている。爆弾が落ちた場所を取材して制作された。息をするように膨らんだりしぼんだりする風船からは、兵器の恐ろしさが伝わってくる

 ▼愛や夢の象徴として扱われる風船も、かつて人の命を脅かした歴史がある。最近はごみをぶら下げた大量の大型風船を隣国に飛ばした国もあり、使う人の気持ち一つでその印象は大きく変わってしまう。やはり空には希望に満ちた色とりどりの風船が似合う。

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