世界各地で戦闘が続き、収束の見通しが立たない。日本周辺での危機も現実味を帯び、その備えの重要性が高まっているのは事実だ。しかし、武力行使をやむを得ないとしたり、不戦の重要さを強調するのが、あたかも現実を直視しない態度であるかのようにみなしたりする雰囲気があることは、極めて危うい兆候だ。
第2次世界大戦では全国で約310万人が犠牲になった。旧日本軍兵士約230万人に加え、原爆投下や本県などへの空襲で一般人約80万人も命を落とした。戦争は何としても避けなければならない愚挙だ。終戦の日を機に、不戦の誓いを改めて胸に刻みたい。
政府は2023年度から5年間の防衛費を増額し、防衛力の強化を進めている。背景にあるのは、北朝鮮のミサイル開発と断続的に続く挑発行為、周辺海域の実効支配や台湾掌握への意欲を隠さない中国の動きだ。
防衛力の強化によって攻撃に備える以上に重要なのは、攻撃を受ける恐れのない状況を着実につくっていくことに尽きる。政府には東アジアの安定化に向けた対話を進める姿勢を前面に押し出し、融和に向けて行動していくことが求められる。
国同士などの戦闘は一度始まってしまえば、終わらせるのが極めて難しい。それは太平洋戦争までさかのぼるまでもなく、現在の世界情勢からも明らかだ。
ロシアによるウクライナへの侵攻は、国境付近での動きが活発化しており、開始から2年を経てなお、戦闘激化の様相を呈している。イスラエルとイスラム組織ハマスは、パレスチナ自治区ガザで激しい戦闘を繰り広げている。また、イランがハマス幹部殺害への報復として、イスラエルを直接攻撃する構えを示しており、戦闘の拡大が懸念されている。
二つの実質的な戦争により、民間人を含めた多くの命が失われていることには胸が痛む。一刻も早く戦闘がやむよう世界各国が力を尽くさなければならない。
戦中に青春時代を過ごした評論家加藤周一は、戦争で多くの友人が亡くなったことを挙げ「私の友達を殺す理由、殺しを正当化するような理由をそう簡単に見つけることはできない。だから戦争反対ということになる」(「私にとっての20世紀」岩波書店)と書いている。この言葉は、ウクライナでもガザでも同様であろう。
危機が高まる現実を直視するならば、最初にすべきは、戦争を正当化する理由などあり得ないと一人一人が再確認することだ。