【8月16日付社説】岸田首相退陣へ/国民の信頼を失った結果だ

08/16 08:00

 岸田文雄首相は、政治とカネの問題などを抱える自民党を改革できなかった。国民の信頼を失った結果、9月の党総裁選から身を引く事態に追い込まれた。皮肉にも、自身がよく使う「信なくば立たず」の言葉を体現した形だ。

 首相はおととい、政治資金パーティー裏金事件で失墜した党の信頼回復のため、総裁選に立候補しないと表明した。記者会見では、党が変わる姿を示すのに「最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と語った。

 直近まで再選への意欲をにじませていた首相の言葉を額面通りには受け取れない。内閣支持率は20%台で低迷が続いており、政権浮揚の糸口すらつかめず、八方ふさがりとなったのが実情だろう。

 総裁選の日程が決まれば、「岸田降ろし」が本格化する可能性があった。先手を打って退任を決めることで、党内への影響力は残せるとのベテランからの助言が、首相の背中を押したとされる。

 責任を取るならば、改正政治資金規正法が成立した6月が妥当だった。いまさら責任論を持ち出したのは、党内での立場を守るための演出と言わざるを得ない。

 改正規正法は、政治資金を監査する第三者機関の在り方など検討課題が付則に列挙された生煮えの内容だ。首相は課題への対応について「総裁任期中、できるところまで最大限進める」と語った。

 裏金事件の全容解明も、政治改革も中途半端だ。首相には残る任期の中で、第三者機関設置などへの道筋を具体化する責務がある。

 首相は2021年の就任以来、新たな地域活性化策「デジタル田園都市国家構想」や少子化対策などに取り組んできた。東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を1年前に開始し、帰還困難区域の避難指示解除も進めた。

 防衛力の抜本的な強化や原発の最大限活用など、世論を二分するような政策については、国会での熟議を経ずに転換を推し進めた。安倍晋三元首相の国葬に至っては国会に諮らずに決定した。

 当初は安倍、菅政権のトップダウン政治と一線を画す構えを見せた首相だったが、国会軽視の政治手法を継承した。自民1強にあぐらをかき、国民の政治不信を増大させた責任は重い。

 総裁選に向け、党内の動きが活発になってきた。今回は政策にとどまらず、裏金事件を招いた党の体質そのものが問われる。

 党の「表紙」を変えただけでは逆風はやまない。総裁選で解体的出直しを図らなければ、自民の信頼回復は程遠い。

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