先月の東京都知事選で選挙掲示板に同じポスターが多数張られたり、選挙と無関係な内容やほぼ全裸の女性のポスターなどが張られたりする事態が起きた。自民、公明、立憲民主の各党は秋の臨時国会で公職選挙法を改正し、再発防止につなげる方針だ。
選挙運動は候補者の良識に委ねられている。憲法が保障する「表現の自由」「選挙運動の自由」にも配慮が求められる。しかし今回の行為は本来の選挙運動とかけ離れており、民主主義の根幹である選挙制度を揺るがしかねない。各党は過剰な規制にならないよう慎重に改善を図ってほしい。
東京都知事選には過去最多56人が立候補した。このうち24人の候補者を擁立した政治団体が「掲示板ジャック」と称し、寄付者に掲示板の枠を提供したことで、同じデザインのポスターが張られた。
選挙ポスターは候補者の人となりや政見を有権者に伝える手段の一つだ。総務省によると、選挙ポスターに虚偽を記載すると処罰の対象になるが、内容を制限する規定はなく、選挙管理委員会による事前審査なども行われない。
今回の事案は想定外とはいえ、掲示板の枠が売買の対象となり、選挙の目的を逸脱していたのは明らかだ。利益目的での使用を禁じたり、利用を候補者のみに限定したりなどの対応を検討すべきだ。
今春の衆院東京15区補欠選挙では、ほかの候補の選挙活動を妨害したとして、政治団体の代表らが公選法違反の疑いで逮捕された。街頭演説などを妨害する動画をインターネットに投稿し、広告費を稼ぐ目的があったとみられる。
2013年にネットを利用した選挙運動が解禁されて以降、交流サイト(SNS)などの活用が定着してきた。しかし売名や収益を目的としたSNSなどの活用が散見される。投稿した動画が話題となり、再生回数が増えるほど収益を得られる仕組みが、こうした行為の背景にある。
利便性の高いネットの活用はさらに広がり、大きな影響力を持つことになるだろう。しかし選挙に絡む悪質な行為、収益目的の利用は看過できない。政府はプラットフォーム事業者などと連携し、投稿内容を確認したり、選挙活動に絡む投稿の収益化を防いだりする対応を検討する必要がある。
選挙には候補者を平等に扱って自由で活発な論戦を実現し、有権者に正確な情報を届けることが求められる。投票率の低下に歯止めがかからないなか、有権者の選挙への信頼を損ねるような行為を許してはならない。