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【7月15日付編集日記】噴火への備え

07/15 08:30

 井上靖の小説「小磐梯」は不穏な空気に満ちている。舞台は磐梯山周辺にある村だ。耕作地の測量調査のため出張していた役人らが奇妙な物事をたびたび見聞きする。おびただしいヒキガエルの群れ、温泉の湯量の減少、そして頻発する地震や山鳴り

 ▼悪いことの前兆ではないかという村人らの予感は的中する。磐梯山の噴火だ。小説は1888年7月15日に起きた史実をモチーフにした。自然の脅威を前にした人々の恐怖が生々しく描かれている

 ▼日本は活火山が111もある火山大国。470人余りの犠牲者が出た磐梯山の噴火から130年以上が過ぎた現代でも、全国各地で火山災害が起きている。にもかかわらず、国内の火山の観測や研究は、大学や関係機関の連携が不足するなど手薄な体制が続いてきた

 ▼ようやく―の感は否めないが、政府は本年度、観測などを一元的に統括する火山調査研究推進本部を文部科学省内に設置した。調査研究の体制強化や専門人材の育成など、取り組むべき課題は山積みだ

 ▼猪苗代町で今週末に開かれる「磐梯まつり」では、参加者が犠牲者の鎮魂を祈る。平穏な暮らしを願う人々を守るために、不吉な前兆を見逃さない防災力の充実が急がれる。

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