【７月18日付編集日記】分かりやすさ

　リーダーになりやすい人はどんな特徴を持っているのかを調べた研究がある。その結果は大きく分けて二つ。「武力や暴力を持っている人」と「この人がいれば安心すると思われる人」が、ほかの人を導く役を担うことが多いらしい

　▼分かりにくいのは後者。単純に経済力や知恵のある人ではなく、うそでも自信満々に語る人のことを指すそうだ。ある芝居のパンフレットで、脳科学者の中野信子さんがこの研究を紹介しながら、人はお金だけある人より「口のうまい人の方が好き」と指摘している

　▼中野さんはこうも言う。「動画も短いものでなければ再生回数が増えなくなっている。物事の複雑な構造を受け入れる土壌はどんどん減っている」。事実であることより、うそであっても「今の世界はこうだ」と言い切る方が、人々を引きつける状況が生まれている

　▼「銃撃の瞬間に顔をそらしたのは、日本の古い親友の声が聞こえたから」―。トランプ氏の銃撃事件を巡り、根拠に基づかぬ偽情報が出回っている。これも分かりやすさ故の現象だろう

　▼事実が分かりやすいのが一番だが、社会は複雑化の一途だ。自信満々でなくとも、地道に事実を語る姿にこそ信頼と安心を見いだしたい。