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対話で立ち直り支援 「拘禁刑」来年施行、刑務官の負担や距離感課題

07/23 11:30

さまざまな処遇が実施されている福島刑務所。受刑者の立ち直りには民間の協力も不可欠となる

 張り巡らせた鉄格子に漂う緊張感。受刑者は黙々と与えられた刑務作業や教科指導をこなす―。厳重な警戒態勢にある福島市の福島刑務所では、女性が入所する福島刑務支所と合わせて約千人の受刑者が生活する。「一人一人に目を向けられ、受刑者の立ち直りを支援できる。ようやく本来の刑務所の姿になる」。高野洋一所長は、懲役と禁錮を一本化した「拘禁刑」に前向きな姿勢を示す。

 次の犯罪防止に

 懲役受刑者の刑務作業を義務にせず、受刑者の特性に合った柔軟な処遇で更生を目指す拘禁刑。2025年6月の導入に向け同刑務所は、社会復帰の基本となる刑務作業を大幅に減らさない一方、受刑者との「対話」の機会を増やす予定だ。高野所長は「対話を通じて受刑者自身が自分の罪を自覚し、自制心を高めていく。それが次の犯罪防止につながる」と話す。

 現状、受刑者が対話できるのは余暇時間など一部の時間に限られ、刑務作業中も原則、私語厳禁だ。受刑者の人権支援活動を行うNPO法人監獄人権センター代表の海渡雄一弁護士は「罰を与えることが目的の刑はもう古い」と指摘。刑務官との対話を機に自分の問題に気付いて立ち直れた受刑者もいるとした上で、「自分の人生を振り返る機会になれば良い」と対話の必要性を語る。

 一方、課題になるのが刑務官の負担増加だ。刑務官の仕事は受刑者の規律や保安を順守させることがメインだったが、今後は受刑者との適度な距離感を保ちつつ「対話相手」になる必要がある。高野所長は「普段の様子を知る刑務官が話し相手になることが大切。刑務官のスキルアップがさらに求められる」と話す。

 保安対策も必要

 刑務官と受刑者の関係を巡っては、名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行や暴言を繰り返した問題を受け、4月から受刑者を「さん」などの敬称を付けて呼ぶように変わった。ただ、受刑者との距離が近づけば弱みを握られ利用される心配も生じるため、保安が緩くならないような対策も必要となる。福島刑務所では拘禁刑を見据え、大学教授を講師に招き、刑務官を対象に対話のスキルを向上させる訓練に取り組むという。

 今後は取り組める処遇の幅が広がることになるが、刑務所単独では限界がある。高野所長は「外部の団体の協力を得ながら、さまざまな処遇を実施できれば」と期待を込める。

 刑務所での矯正処遇 勤労意欲の養成を目的とした社会復帰の基本となる「刑務作業」、運動指導など生活習慣の回復や健康な心身の育成を目的とした「一般改善指導」、薬物依存や暴力団の加入など社会復帰に支障があると認められた受刑者に特化した「特別改善指導」、基礎学力の定着を図る「教科指導」がある。拘禁刑を創設する改正刑法は2025年6月に施行される

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