東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年6カ月。第1原発の廃炉作業では、溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験的取り出しについて、準備段階で作業手順の不備が見つかり、着手時期が遅れるなどの課題もあった。
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東京電力福島第1原発の廃炉作業で最難関とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは、2号機で試験的に行われる予定だったが、装置の並び順の誤りという初歩的ミスで出だしからつまずいた。東電は、協力会社任せの体制などがミスの原因になっているとの調査結果を公表した。東電は、装置を正しく設置し直し、10日に作業を再開した。
東電は8月22日、デブリの試験的取り出しに向けて準備を進めていた。順調に進めば、約2週間かけて3グラム以下のデブリを伸縮するパイプ型の装置の先端に付けた爪形の器具でつまみ、取り出す計画だった。
だが、7月下旬のパイプ型装置の設置段階でミスがあった。先端装置を原子炉格納容器側に押し出すためのパイプを設置する順番が異なっていた。東電によると、パイプは5本あり、外観はほぼ同じだが一部で形状が異なる。順番を誤って使用すると何らかのトラブルが発生していた恐れがあるという。
装置の設置作業を担当する三菱重工業と下請け企業の作業員が7月27日、パイプを格納容器周辺に運んだ。作業員の被ばく線量が作業終了の規定に近づいたため、4本の運搬で作業を終えた。
翌28日、パイプをケーブルに通す作業の際に1本足りないことに気付き、29日に本来の順番と異なる位置に最後に運搬したパイプをつないだが、認識を誤ったままで作業を終えた。
その後、約1カ月にわたりミスを見逃していた。今月5日の記者会見で福島第1廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は「協力企業に任せきりで東電の関与が薄い。大いに反省すべき点だ」と釈明した。
東電は今後、取り出しに向けた作業に再度取りかかる。パイプ型装置を差し込み、釣りざおのように先端の器具を垂らしてデブリを採取。取り出し後は、原子炉建屋内に設置した設備で放射線量や重さを測定し、茨城県大洗町の分析機関に陸送する。
分析する日本原子力研究開発機構(JAEA)は年度内に結果をまとめる方針を示している。東電はデブリの性状を把握し、今後の段階的な取り出し規模拡大や廃炉作業の進展に生かしたい考えだ。
デブリの試験的取り出しは当初、2021年に始まる予定だったが、新型コロナウイルスの影響や取り出し装置の変更に伴い延期を重ねた。
最難関の第3期工程
2号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験的取り出し着手により、国と東京電力の廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」は最終盤の第3期に入った。廃炉完了を2041~51年と掲げるが、デブリ取り出し開始が延期されるなど一部工程に遅れが生じている。
工程表は11年12月に国と東電が作成し、作業状況などを反映して19年12月に5回目の改定を行った。このうち使用済み核燃料の取り出しについて、搬出を終えた3、4号機を除く1~6号機全ての使用済み核燃料プールに残る燃料について、31年末までに搬出を目指すとしている。1号機は27~28年度の取り出し開始を目指して放射性物質の飛散を防ぐ大型カバーの設置を行っているが、「23年度ごろ」としていた設置目標について作業に時間がかかるとし、「25年夏ごろ」に既に見直した。
廃炉が進むにつれて原子炉建屋の解体や放射性廃棄物の最終処分などが必要になるが、山積する課題への答えは示されていない。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の山名元(はじむ)理事長は「デブリや廃棄物などの性状の理解が十分に整っておらず、廃炉の最終的な姿を明確に見通すことは現在、極めて難しい」と指摘する。その上で「最終目標を具体的に描けるようになるには第3期での作業がある程度進展する必要がある。最終的な形は技術側と地元側が共に考えることが重要だ」とした。
デブリ、1~3号機に推計880トン
デブリは、原発事故により原子炉を冷やすことができなくなり、溶け落ちた核燃料が原子炉内のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものを指す。ウラン燃料が燃料棒に閉じ込められておらず、塊や粉などさまざまな形状で存在する。放射線量が非常に高く人が近づけないため、取り出しは廃炉作業の最難関とされる。
国際廃炉研究開発機構(IRID)によると、デブリは、1号機に279トン、2号機に237トン、3号機に364トンの計880トンあると推計されている。これまでの調査などから、格納容器内のデブリの分布は各号機で異なるとみられている。
東京電力によると、デブリは注水などで熱が下がって安定した状態にあるが、設備の経年劣化によって少しずつリスクが高まっていくことが懸念されている。長期的に安全性を確保するため、取り出して適切に管理できる状態に移行することが重要としている。
※写真=2019年の2号機調査で、デブリの可能性がある堆積物を機器で持ち上げた様子(東電提供)
「東電、手を抜いたか」
日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野広委員長の話 今回の現場は原子炉格納容器に近いため放射線量が高く、作業スペースも狭い。防護服も着用しており手順を明確にしないと間違えることは明らかだ。しかし東京電力は「たいした作業ではない」と手を抜いたのではないか。原因分析は作業の流れしか説明しておらず、指示系統と責任の所在が不明確だ。今後廃炉が進むと、さらに高線量の厳しい現場にアクセスする。そういう局面では今回のようなミスをすると重大事態につながりかねないので、何が欠けていたのか明らかにし、教訓とすべきだ。