想定外の事態が起きうることを肝に銘じ、安全・安心を追求することが求められる。
東日本大震災で被災した東北電力の女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機が13年7カ月ぶりに稼働した。東京電力福島第1原発事故以降、被災地に立地している原発として初めて、福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても初の再稼働になる。
震災時、女川原発には13メートルの津波が押し寄せ、2号機の原子炉建屋地下が浸水した。このため東北電は総額約5700億円を投じて海抜29メートルの防潮堤を整備し、原子炉建屋の耐震性も強化した。重大事故時に原子炉格納容器の圧力を下げて破損を防ぐフィルター付きベントなども設けた。
施設の安全性を向上させ、原子力規制委員会の審査に合格したとはいえ、完全に安全が担保されたわけではない。女川原発は長期にわたり運転を停止していたため、技術系社員約500人のうち4割に運転経験がなく、社員のスキル向上などが課題とされる。
東北電は、作業員の教育や訓練などにも注力し、安全最優先の運転に努めてほしい。
懸念されているのは、有事の際の住民の避難だ。女川原発は三陸海岸の最南端に位置する牡鹿半島にある。30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)の3市4町の約20万人を対象に策定された住民の避難計画では、地域ごとに避難経路が設定されているものの、地震などで道路が寸断される恐れがある。
1月の能登地震では半島部の道路網の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになり、孤立集落が相次いだ。屋内退避が呼びかけられても、自宅や公共施設が地震などで被災すれば、放射性物質の流入を防ぐ気密性が保たれるかどうか分からない。
三陸沖を震源とする大きな地震は今後も発生が想定されている。国や県、立地自治体は避難ルートの整備や耐震化、屋内退避時の安全対策の強化など、計画の実効性を高める取り組みが急務だ。
福島第1原発事故の避難者訴訟では国の責任を否定し、東電だけに賠償を命じる判断が続く。こうしたなか、政府は原発の依存度を低減させるとしてきた方針を、脱炭素とエネルギー安定供給を理由に「最大限活用」と転換した。
女川2号機に続き、同じ沸騰水型の中国電力島根2号機、東電柏崎刈羽7号機の再稼働が計画されている。国は原発事故がもたらす被害の深刻さを十分に理解したうえで原発の利活用推進にかじを切ったのであれば、その責任を全うしなければならない。