浜通りと中通りの間に位置する阿武隈山地で、風力発電所の集中的な整備が進んでいる。本県を再生可能エネルギー導入の先進地とする「福島新エネ社会構想」の取り組みの一環で、最も早く完成した川内村の川内風力発電所は2月に営業運転を開始した。
阿武隈山地の風力発電を巡っては、国や県の支援を受けた事業者らが11カ所の発電所を整備し、共用の送電網に接続する計画だ。全て完成すれば風車は100基以上、合計の発電量は約380メガワットの風力発電の集積地となる。
福島民友新聞社の調べでは、年度内に福島復興風力が田村市などで整備している阿武隈第1~4発電所と葛尾村にある葛尾風力、川内復興エナジーの川内鬼太郎山風力の6カ所の発電所が完成する。すでに稼働している川内風力発電所と合わせると、阿武隈山地での風力発電量は計画の約5割にあたる計210メガワットとなる。
6発電所の完成は、県内の風力発電導入量を昨年度の約2倍に増やす大きな転機となる。ただ、再生可能エネルギーの施設には、自然との調和や災害時の安全確保により厳しい目が向けられている。行政や事業者は、原発事故で避難を経験した阿武隈山地での脱炭素の推進に際しては、発電所の工事や運用で環境保全に十分な対応を続けていくことが重要だ。
風力発電所は建設時だけではなく、運転中も点検や補修などで継続的な経済効果を地域にもたらす。県の試算では、県内の風力発電所の運転管理に関連した市場は現段階で年間約32億円に相当するという。阿武隈山地で整備が進んでいる風力発電所が全て完成すると、市場は約70億円まで拡大する見通しになっている。
県は研究機関などと連携し、県内企業の風力発電に関連した分野への参入を支援してきた。福島市の企業が国内で初めて、発電設備を雷から守る導線の点検にドローンを使う技術を商用化するなど成果も出ている。県は、阿武隈山地での需要拡大の機を逃すことなく産業集積につなげるため、交換用部品の製造などに関わる企業の育成を加速するべきだ。
川内風力発電所を運営する川内電力は、村と売電収入の一部を教育振興のため寄付する協定を結んだ。今後相次いで完成する発電所の事業者も、見学ツアーによる交流人口の増加を目指すなど、地域貢献に意欲を示している。発電所の立地自治体には、事業者と歩調を合わせ、発電事業が地域の中長期的な発展につながる枠組みづくりを進めていくよう求めたい。