【11月7日付社説】無形遺産に酒造り/本県の技術力伝える好機に

11/07 07:55

 国内屈指の技術力を備えた蔵元が多い本県にとって追い風といえる。海外市場での県産酒の認知度向上、輸出拡大などにつなげていくことが大切だ。

 日本酒や本格焼酎などの「伝統的酒造り」について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が無形文化遺産に登録するよう勧告した。国内23件目になる。

 伝統的酒造りは日本古来の技術で、カビの一種であるこうじ菌を使い、コメなどの原料を発酵させる。複数の発酵を同じ容器の中で同時に進める製法は世界でも珍しく、各地の風土や気候などとも深く結びつき、杜氏(とうじ)や蔵人らによって長く受け継がれてきた。

 本県の蔵元の多くは規模が小さいながら、伝統的酒造りの基準を満たす手法で高品質の酒を醸造している。日本酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数で9回連続で日本一に輝いたのもその証左であり、無形文化遺産の礎を築いてきたともいえる。県内の各蔵元は登録を誇りにさらに技術に磨きをかけてもらいたい。

 国内消費量が減少するなか、日本の酒造り文化が見直される機会にもなるだろう。蔵元や流通関係者は国内での消費拡大の好機と捉え、取り組む必要がある。

 日本酒造組合中央会によると、和食ブームを背景に日本酒の輸出金額、数量はともに右肩上がりで2023年度の輸出総額は410億円と10年前の4倍に成長した。輸出先は中国や米国のほか、台湾や香港、シンガポールなど東南アジアが中心だが、最近は中南米でも日本食レストランが急増しており、需要が見込まれるという。

 県によると、22年度の県産の日本酒とリキュール類の輸出額は約8億円で、うち日本酒が半分を占める。無形文化遺産は、世界遺産や記憶遺産と並ぶユネスコの遺産事業の一つだ。13年には「和食」が登録され、海外で日本食ブームが起きるなど、その影響力は大きい。海外の需要増が期待できる。

 県や各蔵元は、海外の人の好みに合わせた商品を開発したり、商品の特長を外国人にも分かりやすく伝えたりするなど、国外の新興市場で販路を構築してほしい。

 多くの外国人が日本独特の自然や文化に関心を寄せ、各地を訪れている。最近は、地方の酒蔵を巡り、商品を味わうだけでなく、各蔵元の製造方法なども学ぶ「酒蔵ツーリズム」が広がりつつある。

 本県は早くから酒蔵ツーリズムを観光資源に、訪日観光客の誘致を続けてきた。県は旅行会社や各蔵元と内容を充実させるなど、取り組みを強化すべきだ。

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