【11月9日付社説】デブリ回収成功/成果を廃炉加速につなげよ

11/09 07:55

 事故発生から13年を経て、大きな関門の一つをようやく越えることができた。取り出したのは約0・7グラムだが、回収に成功したことの持つ意味合いは極めて重い。

 東京電力福島第1原発2号機からの溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験的取り出しで、東電が装置でつかんだ小石状のデブリの回収に成功した。回収は、原発事故後初めてだ。東電は回収したデブリを分析し、本格的な取り出し作業の検討を進める。今回の成果を本格的な取り出しにつなげることができるかが問われる。

 東電は当初、9月上旬の回収を見込んでいたものの、単純ミスにより仕切り直しとなった経緯がある。微量を取り出したとはいえ、建屋内に残るデブリの状態はいまだ分からない部分が多い。また、高線量下での作業ではミスが起きやすい。今後もさまざまなトラブルが起きることが想定される。

 これまでの廃炉作業のトラブルには、慎重を期すことで防ぐことができる性質のものもあっただろう。東電は安全を優先しつつ、起きなくてもよいトラブルをなくしていくことが大切だ。

 取り出し成功により、国と東電が今後向き合うべきは廃炉の工程をどう現実に即したものにしていくかだろう。東電は当初2021年までにデブリの取り出しに着手する予定だった。事故により生じた原子炉建屋のがれきの撤去も予定より大幅に遅れている。取り出すデブリやがれきなどの放射性廃棄物の処分についても、見通しが立っていない。

 当初の予定と実際の作業の進行にずれが生じても、国、東電は51年までの廃炉完了の目標を変更していない。目標が、それぞれの工程の積み上げとは無関係に設定されているためだ。

 廃炉の見通しは立地の両町を含む被災地の復興に大きく影響する。目標と実情の隔たりを見ないかのように、「目標時期は変わらない」と言い続けているのは、誠実な態度ではない。

 デブリは1~3号機で計約880トンあると推計されている。国、東電にしても、デブリの状態が分からず、具体的な工程を決めることができなかったという面はあっただろう。

 今回や今後の取り出しでデブリに関する知見を蓄積していくことで、本格的な取り出しに向けた現実的な工程の策定が期待できよう。国と東電にはその工程を踏まえ、廃炉の完了とはどのような状態を指し、51年までにそれをどのようなスケジュールで実現させていくのかを示す責任がある。

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