浪江町で、JR浪江駅周辺の整備事業が着工した。総事業費250億円を投じ駅前の約12ヘクタールを一体的に再開発する大型プロジェクトで、東京電力福島第1原発事故で被災した浪江町の復興の起爆剤として期待される。
整備計画では駅の東側にカフェなどを備えた交流施設、スーパーが入居する商業施設、公営住宅を建設するほか、民間のマンション建設を誘致する。多目的使用が可能な円形の芝生広場や連続する緑の空間づくり、双葉地方で初の信号機がない円形交差点「ラウンドアバウト」の設置にも取り組む。
震災前の浪江駅前は飲食店や店舗が密集し、近隣の市町村からも人を集める浜通り中部の経済の中心の一つだった。しかし、面的な整備には膨大な予算が必要なことから、町役場を中心とした国道6号沿いや沿岸部の整備が先行して行われた。駅前はこの間に老朽化などにより家屋解体が進み、空き地が広がる状況になっている。
駅周辺の整備は、町が震災復旧を経て新たなまちづくりに入ることを意味するが、2027年3月の完成にはまだ2年半の時間がかかる。町には計画区域の工事の着実な実施に加え、近隣地域での民間による住宅開発を後押しする取り組みを並行して進め、大規模な整備を人口増や広域的な地域再生につなげていくことが重要だ。
駅周辺整備の計画には、将来のクリーンエネルギーとして注目される水素の利活用が打ち出されている。公営住宅や商業施設、交流施設などでは、パイプラインや燃料電池などを使った水素によるエネルギー供給を積極的に推進する。燃料電池車や近隣を移動するために用いるマイクロモビリティーの補給スポットも設ける。
町によると、多様な水素利用を前提としたまちづくりは全国で例を見ないという。町は町内に水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」が立地する強みを生かし、これまで進んでこなかった生活面での水素エネルギーの実用化を進め、視察などによる交流人口の拡大、水素関連産業のさらなる集積に結び付けてほしい。
浪江駅の西口には、福島国際研究教育機構(エフレイ)が整備される。今回の整備では、交流施設と商業施設に建築家の隈研吾さんが設計した大屋根「なみえルーフ」がかけられ、駅の東西を結ぶ自由通路と連続した景観をつくる。町には、機能性とデザインの調和の取れたまちづくりを進め、駅周辺を訪れた人にまた来たいと思わせる「双葉地方の玄関口」とすることを求めたい。