人権に関する「世界の女性の憲法」と言われる女性差別撤廃条約を批准しているにもかかわらず、日本には差別の解消に消極的な面があると言わざるを得ない。政府と国会の主体性が問われる。
国連の女性差別撤廃委員会が条約の履行状況を審査した。日本の女性を取り巻く問題として指摘されたのは、男女の賃金格差や、人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要とすることなど多岐にわたる。
まず勧告されたのは、世界で日本のみとされる夫婦同姓を義務付ける法規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入することだ。同様の勧告は2003年から受けている。
日本では夫婦の9割超が夫の姓を選んでいる。生き方や人格の象徴として別姓を望む人にとって、名字の変更は精神的苦痛を伴うことがある。旧姓の通称使用は夫婦の一方が名字を使い分ける煩雑さを負うことになり、ビジネス面での弊害も指摘されている。
女性が受ける精神的な苦痛や不利益の解消に取り組む責任がありながら、政府と国会が、選択的夫婦別姓導入の議論を棚ざらし同然にしてきたことが問題だ。
石破茂首相は自民党総裁選時には選択的夫婦別姓の導入に前向きだったが、首相就任後は慎重な姿勢に転じた。党内の慎重派への配慮があるとみられる。従来ならば勧告を受けても議論を先送りしたであろうが、少数与党となったことで状況は変わった。
ほとんどの政党は選択的夫婦別姓の導入に前向きで、自民は議論を避けて通れない。与野党は早急に議論に着手すべきだ。
衆院選では過去最多となる73人の女性が当選したものの、全衆院議員の2割に満たない。意思決定に関わる女性議員の少なさが、差別撤廃の取り組みが進まない要因の一つと指摘されている。
ジェンダー論に詳しい福島大の前川直哉准教授(社会学)は「結婚しても名字が変わらないことの多い男性は、同姓の何が不利益なのか実感しにくい。結果的に問題解決の優先順位が下がる。女性議員が増えれば、有権者の半分である女性の問題の優先度を上げて議論しやすくなる」と話す。
国連の委員会は、国会議員の男女比を平等にするための一時的な措置として、女性候補の供託金の減額と、議席や候補者の一定数を女性に割り当てるクオータ制の導入を勧告した。
議員だけでなく、候補者の男女比も平等とは程遠い。勧告を受けるような状況の改善が急務だ。国会は、女性が立候補しやすくなる仕掛けを講じる必要がある。