福島県西会津町は、独自に開発したアプリでコメ農家の安定収入を支援している。農家と消費者が直接売買できるほか、コメの購入や農作業のボランティアを通じて得られる貢献度「石高」をためるとコメと交換できるデジタルチケットを受け取れる。卸売業者を介さないため昨今のような価格高騰の影響を受けにくく、関係者は「地域農業を守る新しいモデルケースになるのではないか」と期待する。
「獲得が難しい新規の顧客も増えた。とても助かっている」。アプリに登録している農家の岩橋義平さん(72)は同町奥川地区にある田んぼで笑顔を見せた。岩橋さんは有機肥料や害虫予防効果のある竹酢をまくなど減農薬栽培にこだわり、小規模生産をしている。しかし、卸売業者に出荷すると「会津産」とひとくくりにされ、手間が価格に反映されにくかった。アプリでは農家の細かい栽培方法も紹介しており、「こだわりが消費者に伝わり、納得した形で購入してもらえるのはうれしい」と喜ぶ。
取り組みは「石高プロジェクト」と呼ばれ、アプリは2023年に運用が始まり、登録農家は3軒でダウンロード数は約800に上る。販売価格は登録農家が収穫前、栽培にかかる手間を考慮して事前に決める。届く量も生育状況で変わり、例えば5キロを注文した場合、不作だと同じ値段でも届くのは4キロだが、豊作だと6キロに増える。消費者には一定のリスクもあるが、コメ作りの苦労を共有しながらコメの成育を見守る。年に2回、都内で農家と消費者の交流イベントも開かれており「顔の見える関係」を築いている。
アプリ開発の背景には、農家の高齢化や減少が進む中山間地域の厳しい事情がある。別の高齢農家の稲作も手伝っているという登録農家の坂井康司さん(34)は「自分がやめると地域の農業が成り立たない。田んぼも一つ一つが小さく、作業に手間がかかる」と現状を語る。収入が天候に左右されやすいのも課題で、アプリ運用に携わる元地域おこし協力隊の長橋幸宏さん(33)は「農家が持続的に営農できる環境をつくることが大切だ。消費者が現地で手伝う仕組みを取り入れることで、西会津の固定のファンを増やしていきたい」と歓迎する。
地域農業を研究する龍谷大の嶋田大作准教授は、前払いによる購入で生産者と消費者が相互に支え合う「CSA(地域支援型農業)」の取り組みに似ていると指摘する。アプリを使うことで若い人も関心を持ちやすいとし「今後の地域農業の在り方を考えるきっかけになるのではないか」と注目している。
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石高プロジェクト アプリ内で農家への貢献度「石高」をためると、コメと交換できるデジタルチケットを入手できる。「石高」を得る方法は2通り。消費者が水路清掃や稲刈りなど、現地で指定されたボランティアを行う方法と、通常のオンライン販売でコメを購入する方法。ボランティアはアプリ内からプロジェクトのフェイスブックにアクセスして申し込む。活動内容で得られる「石高」は変わる。アプリのダウンロードは専用サイトから。