国指定重要無形民俗文化財の「相馬野馬追」が開幕した。これまでは毎年7月に行われてきたが、今年からは酷暑による人馬の熱中症などを避けるため、「5月最終土、日、月曜日」の開催へと変更になった。
野馬追は、相双地方の旧相馬中村藩領で行われる伝統行事で、騎馬武者らによる神旗争奪戦や、馬を神前に奉納する「野馬懸(のまかけ)」の神事などで知られる。実施に際しては、地元の企業や団体、学校がみこしの担ぎ手などとして協力してきたが、夏休み期間からの日程変更によって人員の確保が課題になっていた。
主催の相馬野馬追執行委員会がボランティアを募り、企業も人繰りなどを調整した結果、大きな問題はなく開催にこぎ着けた。執行委には5月開催の定着に向け、今年の野馬追を成功に導くとともに、地域協力の枠組みをさらに強化する不断の努力を重ね、伝統を未来へつなぐ持続可能な体制を構築していくことが求められる。
執行委によると、東日本大震災前の2010年の野馬追に参加した騎馬は480騎だった。新型コロナウイルスの感染拡大による2回の縮小開催を経た22年は337騎に大きく減少したが、23年からは回復傾向にあり、今年は約390騎となった。400騎台を維持していたコロナ禍前の状況に近づきつつある。
野馬追を構成する五郷の騎馬会は今年から、中学生は甲冑(かっちゅう)を着なければならないという規制を改め、陣羽織でも出場できるようにした。また、自治体は出場奨励金などを設け、金銭面の負担軽減を図っている。騎馬会と自治体が時代に応じた支援を組み合わせ、野馬追の主役となる騎馬武者の育成を進めていくことが重要だ。
今年の野馬追では、東京電力福島第1原発事故に伴い全町避難を経験した双葉町で、騎馬会が14年ぶりに地元での騎馬行列を復活することを決めた。これにより、野馬追が繰り広げられる相馬、南相馬、浪江、大熊、双葉の5市町全てで、震災や原発事故で休止していた関連行事が再開を果たす節目の年ともなった。
現在の野馬追の中核を担う世代は、地元での行事に親しんできたことが、騎馬武者などとして野馬追に参加する入り口だった。震災から13年が経過し、原発事故で人口減少が進んだ地区でも、子どもが地域で学ぶ姿を見ることができるようになった。自治体は、復活した地元行事への観覧などを呼びかけ、次世代への伝統継承の契機として役立ててもらいたい。