物事を計算立てて考えると、人の先入観を覆せるかもしれない。地球の赤道を腹に見立て、ピタリと巻いたベルトを想像してほしい。長大なこのベルトを1メートル延ばしたとき、地表との間にどれくらいの隙間が空くか。紙1枚通らなさそうだが―
▼地球の半径などから計算すると、理論的には約16センチもの隙間ができる。紙1枚どころか子猫が通れる。緩んだベルトを引っ張り上げれば高層ビルだって下を通せる(「宇宙を解くパズル」講談社ブルーバックス)
▼閉幕したパリ・パラリンピックの名勝負を挙げるなら、車いすテニス男子シングルス決勝の逆転劇。障害者スポーツへの先入観を変えようと、戦略的にメディアに露出してきた小田凱人選手にとって最高の展開だった
▼寝転んで号泣する小田選手の傍らに転がる車輪。壊れた? 見ているこちらは驚いたが、車輪を外さないと倒れるのが難しいらしい。こんなこともできるのか―。事前に考えられていた寝転がる演出に、金づちで頭をたたかれた思いがした
▼相手選手は車輪を拾い、起き上がる小田選手に手を貸した。多くの人の心をつかんだこの場面はさすがに計算外だろう。スポーツの素晴らしさに、理屈を挟む余地はなかった。