【11月2日付社説】西田敏行さん死去/県民を支えた名俳優に感謝

11/02 08:20

 日本を代表するエンターテイナーだった。その優しい笑顔、低く心地よい声は県民の記憶に永く刻まれることだろう。

 映画「釣りバカ日誌」シリーズやNHK大河ドラマ「翔(と)ぶが如(ごと)く」、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」などに主演した郡山市出身の俳優、西田敏行さんが先月、亡くなった。

 少年時代、養父に連れられて映画館に通い、さまざまな作品に触れることで俳優を志すようになった。上京後、青年座を経て、数々のテレビドラマや映画などで活躍した。バラエティー番組では涙もろく、飾らぬ人柄を見せた。歌手としても「もしもピアノが弾けたなら」が大ヒットした。

 映画やテレビなどの第一線で活躍を続けた西田さんは、県民に誇りをもたらしてくれた。心からの感謝と敬意を表したい。

 県民栄誉賞受賞などの節目で、西田さんは演じることへのこだわりを語っている。福島民友新聞社の「みんゆう県民大賞」受賞に際しては、「一つの役というよりは、いろんな役をやりたいという欲求の方が強い」と話した。

 西田さんは、既成概念にとらわれず、常に新しい表現方法を探っているのが役者だと考えていた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故後に開校した、ふたば未来学園中・高を支援する「ふたばの教育復興応援団」の取り組みに関連して明かしてくれた。

 役者経験を通じて生徒に伝えたいこととして、こう述べていた。「当たり前とされる物事が正しいかどうか疑いを持ってみる、という新たな視野を持つ大切さを具体例を交えて提案したい」

 おおらかでコミカルな役から狂気をはらんだ役まで幅広く演じ、心の機微を自在に表現することができたのは、飽くなき向上心や物事を多角的に見る目があったからだろう。俳優をはじめ、何かを追求しようとしている若者は、西田さんの姿勢に学んでほしい。

 震災と原発事故について、5年前の本紙取材で西田さんは、建物など物理的な復興以上に、心の復興の大切さを説いた。県外避難者のメンタルヘルスが悪化しているとの研究がある現在、西田さんの指摘の重要性は増している。

 県民にはこんなメッセージを送ってくれた。「諦めなければ必ず日は差します。口角を上げて、にっこり笑って過ごしてほしい。そうすることでご自身の中での復興が見えてくるかもしれません」

 西田さんが遺(のこ)してくれた言葉を大切に、福島のあすを切り開いていく決意を新たにしたい。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line