本を読むことは、学力の向上などの実利的な効果と結び付けて推奨されがちだ。ただ、そうしたことを期待して本を読むのは堅苦しさが伴う。読書に、こうしなければならないというルールはない。まずは、本そのものを楽しむことから始めるのが大切だ。
福島市出身の詩人長田弘は、本を人に例える面白さを語っている。本の価格が「本体」と表記され、その本体に掛けられているのは「帯」、本棚で私たちが見るのは本の「背中(背表紙)」だ。
長田は他人の背中は見られても、自分のそれを見ることはできないとした上で、「背中」の由来を推測している。「人間が自分の見えないものを見る方法として本というものを必要としているため、一つの比喩としてそういう言い方が出てきた」(「読書からはじまる」ちくま文庫)
長田の言う「自分の見えないものを見る方法」とは対照的なのが、私たちの生活に浸透している交流サイト(SNS)だ。SNSでは自身の考えに近い意見ばかりが表示されることが指摘されている。同じような意見や記事を何度も読むより、本を通じて新たなものの見方を発見する方が、世の中の事象一つを考えるにしても、より深い理解につながるはずだ。
文化庁の調査で、1カ月に1冊も本(電子書籍を含む。雑誌・漫画は除く)を読まない人の割合が初めて半数を超えた。理由は「情報機器で時間が取られる」とした人が4割超で最も多かった。
全国で書店の減少が続き、本県も半数近くの自治体で書店がない。政府が書店の振興に乗り出したものの、通販の浸透や娯楽の多様化など、要因は複合的で減少を止めるのは容易ではない。県内には図書館のない町村もある。人口減少などで行政サービスが縮小する見通しがあるのを踏まえれば、現在運営されている図書館のサービス維持も今後の課題だろう。
長田は本を友だちにも例えている。「現実生活の友人はその人が生きているということが前提ですが、本は死んだ人すべてのなかから、自由に自分で、友人を見つけることができる。(中略)読むとは、そうした友人と遊ぶということです」(前掲書)
友だちを見つける場が少なくなってしまうのはさびしい。書店や図書館の振興には、本を買ったり、借りたりするのに勝る策はない。「この一行に逢(あ)いにきた」を標語とする読書週間が9日まで展開されている。書店や図書館に行ってみよう。新しい友だちがあなたと会うのを心待ちにしている。