企業の採用担当者らが優越的な立場を利用し、就職活動中の学生に行うセクハラは、被害者を傷つけ、人生を壊しかねない卑劣な行為だ。担当者を雇用する企業にセクハラを根絶する責任がある。
厚生労働省が、学生へのセクハラ防止対策を企業に義務付ける方向で検討に入った。学生と面談する際の社内ルールの策定や、相談窓口の設置と利用の周知などが対策案に挙がっている。学生のみならず求職者全体が保護の対象になるとみられる。来年の通常国会で関連法改正案の提出を目指す。
厚労省の調査によると、就活中やインターンシップ(就業体験)中にセクハラを受けた学生は3割に上った。内容は性的なからかいや質問、食事への執拗(しつよう)な誘いなどが多い。セクハラにより「就職活動に対する意欲が減退した」「学校を休むことが増えた」など心身への影響が確認されている。
義務化が検討される対策の多くは、20年近く前に厚労省が定めたセクハラ防止に関する指針に沿ったものだ。指針で対策が求められながら、5割を超える企業は特に対応していなかった。
企業の対応が鈍く、セクハラがなくならない現状からすれば、義務化の検討は遅きに失したと言わざるを得ない。政府と国会は法改正の議論を急ぐ必要がある。
採用担当者だけでなく、インターンシップなどに対応した人事部門以外の社員がセクハラを起こすことが少なくない。過去にはOB訪問した学生に対し、社員が酒を飲ませて乱暴し、刑事事件に発展したケースがあった。
対策に取り組んでいる企業は、セクハラに関する処分規定を設けて抑止力を働かせたり、学生と接する社員を研修で指導したりしている。面接官が学生の個人情報を悪用する事例があることから、電話番号や電子メールアドレスなどを非公開にした企業もある。
採用活動時の対策を実施しないのは、性犯罪となりかねないセクハラを黙認しているに等しいと企業は認識すべきだ。義務化を待たず対策を取ることが求められる。
学生は被害に遭わぬよう、採用担当者らと個人的な連絡を取らないことが大切となる。食事に誘われたり、個室での面談を求められたりしても応じる必要はない。
泣き寝入りすると、入社後も性的な嫌がらせが続く恐れがある。セクハラを受けたら、大学のキャリアセンターや労働局などにためらわず相談することが重要だ。たとえ第1志望であっても、セクハラを行う企業には入社しないという選択肢を持ってほしい。