原発事故被ばく、遺伝影響ないのに... 誤解回答46・8% 全国調査

06/22 08:45

 東京電力福島第1原発事故の放射線による健康影響に関する環境省の全国調査で、被ばくした人の子孫に遺伝的な影響が起こる可能性について質問した場合、誤解した回答が全体の46・8%に上ることが21日、分かった。一方、質問に加え専門機関の「遺伝的な影響はない」との公式見解を示したところ、誤解した回答の割合は4割を切るとの結果が出た。

 調査は2021年、22年に続き3回目で、全国の20~69歳の男女1万2千人を対象にオンラインで実施。このうち2千人については、過去2回の調査と同様に質問だけを掲示した結果、影響が起こる可能性が「高い」が39・5%、「非常に高い」が7・3%だった。誤解する人の割合は21年が41・2%、22年が40・4%で、質問だけを掲示した調査の結果で過去最高となった。影響が起こる可能性が「低い」と回答したのは42・9%、「極めて低い」が10・3%だった。2千人の中には県民200人が含まれている。

 誤解した回答のうち、最多の34・9%が「科学はいまだに分からないことがあると思うから」と理由を挙げた。このほか、「放射線は体に悪い」が31・4%、「放射線は体にたまって悪影響を及ぼす」が27・4%だった。

 調査対象のうち、残る1万人については専門機関の見解を示した上で質問を掲示するなどの形式を導入した。その結果、いずれも46・8%を下回った。環境省は「誤解が差別や偏見につながる恐れがある」として正確な理解を広めるための事業を展開しているが、専門家らは「情報発信内容を含め改善が求められる」と指摘している。

 根拠提示で誤解減少 第三者機関の見解重要

 東京電力福島第1原発事故に伴う放射線の健康影響について、環境省の全国調査では、対象者の一部に専門機関の遺伝的影響に関する公式見解を示した上で質問した結果、質問だけだった場合と比べて誤解した回答の割合が減少した。政府関係者は「健康影響が起こる可能性が低いとする科学的根拠を提示すると、誤解した回答の割合が減る傾向が強い」と分析している。
     
 2021~23年の各調査結果は【グラフ】の通り。環境省は全国の調査対象1万2千人のうち、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR=アンスケア)と日本産科婦人科学会の公式見解を各2千人に示した。

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 原発事故による放射線被ばくを巡っては、アンスケアが「将来的な健康影響は見られそうにない」、学会が「胎児、母乳、乳幼児への悪影響について心配する必要はない」としている。

 遺伝的影響の可能性について誤解した回答は、アンスケアの見解を示した場合が39・7%で、学会の見解を示した場合が39%だった。見解を示さず質問しただけの場合は46・8%に上った。アンスケアと比べ、学会の見解を示した場合に誤解した人の割合がより減少した結果について、専門家は「ともに同じような見解を示しているが、アンスケアは一般的になじみがない。日本産科婦人科学会の方が知られている」との見方を示した。

 今回の調査結果を踏まえ、政府関係者は「第三者機関の見解の提示が回答者の誤解の払拭につながる」とし、放射線の健康影響への理解促進に向けた取り組みの改善に生かす方針だ。

 ただ、今回の調査では第三者機関の公式見解を示しても誤解した回答の割合が4割近かった。環境省は25年度までに、回答の割合を4割から2割に下げる目標を掲げており、取り組みの一層の強化が求められる。

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