ひきこもりの人やその家族の視点に立ち、支援を提供できる仕組みをつくることが必要だ。
厚生労働省が、初めてとなる自治体向けの指針「ひきこもり支援ハンドブック」の策定を進めている。その背景には、ひきこもりを原則的に6カ月以上、家庭にとどまり続けている状態と定義し、病院を早期受診する重要性などを挙げた既存のガイドラインが、十分機能していない現状がある。
ひきこもりは障害や精神疾患だけでなく、いじめやリストラなど人間関係が要因となることがあるにもかかわらず、医師の診断がない、ひきこもりの期間が短いなどの理由で支援を受けられないケースは少なくない。その結果、80代の親が、50代の子の生活を支えて困窮する「8050問題」を引き起こしていると指摘されている。
ハンドブックの骨子では、医療に重きを置いた既存の定義を踏襲せず、社会的な問題も含めて生きづらさを抱え、他者との交流が限定的になっている人や家族らを幅広く支援対象に位置付けている。ひきこもりの期間も問わない。
ハンドブック策定はひきこもり支援の転換点だ。国や自治体などには、画一的な支援を改める契機とすることが求められる。
ひきこもりの当事者と接触することができない、就労まで至らないなど、支援の難しさを感じている自治体職員らは少なくない。ハンドブックには現場の課題を踏まえ、家族を通じた働きかけや、目標を就労に限定しないことなど支援のポイントが盛り込まれる。
当事者らがまず頼りにするのは身近にある相談窓口だ。自治体はハンドブックの狙いを踏まえ、支援体制の強化や人材育成につなげることが重要となる。
ひきこもりに特化した法律はない。生活困窮者の自立支援や孤独孤立対策など各法律に基づいて対応されているため、当事者らが制度のはざまに取り残されたり、自治体間で支援格差が生じたりする要因となっている。
KHJ全国ひきこもり家族会連合会副代表の池上正樹さんは、法整備の意義について、漏れのない支援体制を構築することに加え、「ひきこもりは生きるための選択肢の一つ。人としての尊厳を守るために必要だ」と指摘する。
ひきこもりは甘えだとして自立を強いる風潮は依然として社会に残り、家族が相談しても、職員の無理解から当事者の意向に沿わない支援が行われることもある。ミスマッチを防ぐ観点からも、国と国会には、ひきこもりに特化した法整備の検討が求められる。