岸田文雄首相が物価高対策として、5月使用分を最後に終了した家庭や企業向けの電気・ガス料金の負担軽減策を再開する方針を示した。冷房などの利用機会が増える夏場に合わせ、8月から3カ月間限定で実施する。
電気・ガス料金の補助は昨年1月の使用分から始まり、総額で3兆7千億円超が投じられた。政府は、液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格がウクライナ危機前と同水準に落ち着いたことを理由に打ち切ったものの、補助金終了に伴い大手電力会社や大手ガス会社の料金は大幅に上昇し、家計などの負担増を招いている。
国内経済は物価の上昇に賃上げが追い付かず、個人消費が低迷する状況からいまだ脱していない。岸田首相は「緊急支援として最も即効性のあるエネルギー補助を講じる」と強調したが、わずか3カ月での復活は、岸田政権の見通しの甘さを露呈した格好だ。
2022年1月に始まったガソリンや灯油など燃油価格の抑制策も年内に限り継続する。物価高対策とはいえ、数兆円規模の財政出動を伴い、市場原理をゆがめる施策は当初から疑問視されてきた。政府が今月4日に閣議決定したエネルギー白書でも、巨額の予算で補助を長期間続けるのは「現実的ではない」と指摘している。
首相はやみくもに補助を継続するのではなく、中小企業の賃上げ促進など、消費を後押しにする施策に注力すべきだ。
現在の物価高は、記録的な円安による輸入物価の上昇が要因だ。海外から輸入する石油、石炭などの化石燃料への依存体質が改善されず、円安基調が続けば、今後も価格高騰のリスクにさらされる。
補助金で光熱費の負担感が和らぐことで、家庭や企業の省エネや再生可能エネルギーの取り組みが後退する可能性もある。対症療法の施策だけでは課題を根本的に解決できない。政府は現在の円安基調や化石燃料への依存の改善などに重点を置く必要がある。
岸田首相は、今秋に年金世帯や低所得者を対象に給付金を支給することを検討する考えも明らかにした。今月からは1人当たり計4万円の定額減税も実施している。
支持率低迷に苦しむ首相が政権浮揚を狙った「ばらまき」との批判が上がっている。与党や財務当局との事前の調整もないまま、唐突に表明したとの指摘もある。
一部の人で判断するのではなく、政府や与党内で知恵を絞り、国民の理解や協力が得られる施策でなければ物価高の克服は困難だ。首相は肝に銘じてほしい。