有害性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」が全国の浄水場や河川などで検出されている。国や自治体には、リスクに適切に対応できる態勢を整えることが求められる。
PFASは人工的に作られ、1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称だ。このうち一部の物質は水や油をはじき、熱に強い特性からフライパンや泡消火剤、半導体などに使われてきた。現在、身の回りの製品に使われているフッ素樹脂とは異なる。
発がんや免疫力の低下など健康に及ぼす影響が報告されている一部の物質は、国内では2010年以降、段階的に輸入や製造が原則禁止となった。ただ分解されにくいため、過去に幅広く使用されたPFASが自然界に存在している。工場や米軍基地などから流出して、汚染が広がる事例もある。
汚染度が高い場所がどこにあるのか分からないのが現状で、国が初めてとなる水道水の全国調査を進めている。汚染の実態解明や監視を強めることが急務だ。
飲み水の安全性を確保するためのPFASの濃度基準について国は、1リットル当たり50ナノグラムを暫定目標値としている。全国調査などを踏まえ、今後見直しを議論する。
国際的には濃度基準を厳しくする流れにある。米環境保護局は今年4月、規制値を1リットル当たり4ナノグラムに厳格化した。全米の公共水道に汚染状況の監視と公表が義務付けられ、規制値を超えた場合は削減対策が実施される。
数値の議論と併せて重要なのは暫定値ではなく、法的拘束力のある規制値に位置付けることだ。企業などが流出防止に責任を持つ仕組みを構築する必要がある。
国の食品安全委員会は先月、健康への影響について初めての評価書をまとめた。インフルエンザへの抵抗力の低下や出生時の体重低下などとの関連性は「否定できない」との見解を示した。ただ、健康影響の知見は国内外ともに少なく、腎臓や精巣などの発がん性との関連について「証拠は限定的」とするにとどめた。
食品安全委は、飲み水の暫定目標値とは別に設けられている1日の摂取許容量を、現状の体重1キロ当たり20ナノグラムに据え置いた。背景にあるのは新たな指標値を決めるだけの根拠がないという実情だ。
国はPFASの摂取で健康被害が発生した事例は確認されていないとの見解を示しているが、影響の究明を放置していい状況ではない。研究体制を強化し、汚染が確認された地域などでのリスク管理につなげることが重要だ。