家族と死別するという「悲嘆」を経験した人たちに寄り添い、支える「グリーフケア」。高齢化が進み多死社会を迎える中、福島県郡山市田村町にある田村診療所が、みとった患者の家族にグリーフケアのためのカードを贈る取り組みを始める。あなたは一人じゃない、いつでも頼ってね―。その思いをオリジナルのイラストカードに託し、四十九日に合わせて患者遺族に届ける。
同市郊外の自然豊かな場所にある同診療所。患者のほとんどはこの地域に暮らす80歳以上の高齢者で、外来と訪問による診療を行う。
病状が比較的安定し、長期的な療養が必要となる「慢性期」の高齢者の診療で欠かせないのが、その家族との関わりだ。
患者に残された人生の時間をどう使うかを、患者本人だけでなく、家族の希望も踏まえて治療方針を決めていく。
「患者が亡くなったら家族との関わりも終わりではなく、家族の悲しみに寄り添い『私たちが近くにいるよ』と目に見える形で伝えたい」。患者家族と接する中でグリーフケアの必要性を感じていた影山理恵医師(35)が、みとった患者の家族に贈るカードの作成を発案。福島市在住のイラストレーターico.(イコ)さん(38)にカードのイラストを依頼した。
カードに描かれたのはオレンジや黄、白色の花畑の中で花を抱きしめるクマのような動物。花畑をよく見ると、チョウチョウが紛れている。花々は自然の一部になった故人、動物は遺族、チョウチョウは遺族を見守る診療所の医師らを表現した。
同診療所は、主に高齢者医療を担う同市の土屋病院と同じ医療法人慈繁会が運営する。診療所院長でもある、同法人の土屋繁之理事長(70)は「高齢者医療はその家族に寄り添うことが必要。カードをきっかけにさらに地域医療に貢献していきたい」と語る。
カードが最初に届けられるのは今月中旬。宛先は訪問診療でみとった患者2人の両遺族だ。
影山医師が職員と共に、遺族の体調を気遣う手書きの手紙を添えたカードを封筒に入れる。「病気だけでなく、患者の人生、さらにその家族も診るような、より地域に根差した診療をしていきたい」(今泉桃佳)
気持ちをはき出すきっかけ
上智大グリーフケア研究所(東京都)の大村哲夫特任教授(臨床死生学)は「患者の死亡により、切れてしまった医療機関と患者家族との関わりが、カードを贈ることで再びつながり、悲しみを抱える遺族が、気持ちをはき出すきっかけになる」と取り組みを評価する。
家族を亡くした人の多くが「もっとできることがあったのではないか」と後悔を抱えているが、患者の死亡でそれまで頼っていた医療機関に関わる機会がなくなってしまうと指摘。「地域コミュニティーが希薄になった今、特に高齢者の多い地方の医療機関には患者を治療するだけでなく、死を迎えること、さらに患者が亡くなった後まで支えるという関わりが求められている」と語った。
グリーフケア 家族との死別といった喪失の悲しみ(グリーフ)に寄り添い、支える取り組み。傾聴などを通じて遺族が気持ちをはき出す機会をつくることで、遺族の立ち直りを支援する。