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国見百条委「町の信用毀損した」 町民からは正常化求める声

07/11 11:20

賛成多数で調査報告書を可決した国見町議会=10日午前、国見町

 「政治への不信と町の信用が毀損(きそん)されているため、その責任は大きい」。国見町が民間企業と共同開発した高規格救急車を貸し出す事業を断念したことを巡り、町議会が設置した地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が10日の臨時会で報告した調査結果では、引地真町長の政治的責任が厳しく指摘された。

 百条委は昨年10月に発足し、非公開を含む引地町長や事業を受託したワンテーブル社の前社長らに対する証人喚問と参考人招致(計8回)を行った。3月の百条委では、町職員が私的な交流サイト(SNS)を通じて公募に関する決裁前の文書などを事業側に見せていたとする資料が提示された。

 この日の臨時会では、調査結果を報告する佐藤孝委員長の後ろで、引地町長が佐藤委員長と資料に目を配りながら報告内容を聞いていた。百条委の調査結果は審議された後、賛成9、反対1の賛成多数で可決された。その後、報告書提出が非公開で行われ、佐藤定男議長が引地町長に書類を手渡した。

 同日に県庁で開かれた百条委の記者会見では、町職員が作った資料が救急車の発注先の資料と酷似している点や、「国見町官民共創コンソーシアム創出事業(カプコ)」事務局のワンテーブルが高規格救急車事業に参入している点を挙げ、佐藤委員長は「町は『瑕疵(かし)はない』とするが、非常に不自然な点が多すぎる」と指摘した。

 報告書などによると、事業の原資は、企業版ふるさと納税でIT大手DMM.com(東京都)などが町に寄付した計4億3200万円。佐藤委員長は記者会見で、企業版ふるさと納税制度では寄付額の最大9割が税額控除されるため、寄付金の還流に当たるのではないかとも指摘。報告書も「DMM側の節税に利用された疑いを禁じ得ない」とした。

 町民から批判の声「丁寧な説明を」

 臨時会を傍聴した町民からは、町執行部への批判の声や町政の正常化を求める声が挙がった。

 自動車メーカーに勤務した経験がある男性(71)は、町職員が短期間で仕様書を作成したことに「開発には2年以上かかると思う」と疑問視した。議会や百条委を毎回傍聴していたという無職男性(69)は「町長や町職員、誰が責任を取るのか。町長はこの問題について丁寧な説明をしてほしい」と求め、「早く正常な町政に戻ってほしい」と話した。

 百条委によると、調査結果は来週以降、町ホームページで公表される予定。高規格救急車問題を巡っては、町が設置した「国見町事務執行適正化第三者委員会」が事務執行の経過などを検証している。

 資料廃棄、全容解明遠く

 【解説】国見町が民間企業と共同開発した高規格救急車を貸し出す事業を断念した一連の問題。町議会が設置した百条委員会が10日に調査結果を報告し、事業の実態解明に切り口を入れたが、全容の解明には至らなかった。

 百条委では事業者にSNSで公募前のプロポーザル案を提示するなど、私的ツールの利用が問題視された。町職員が3カ月で手がけたとされる仕様書に町は「さまざまな資料を参考にして作成した」とする一方、委員会に提出したのはカプコ事務局から提供されたとする資料のみで、関係資料を廃棄したと説明しており、少ない資料で推測を交えながらの調査となった。

 百条委は捜査機関のような法的拘束力がないため、実態解明には限界がつきまとうことは否定できない。町には百条委の指摘する課題点を受け止め、町セキュリティー対策の強化、資料管理の徹底などを講じる必要性がある。

 百条委から政治的責任を追及された現職の引地真町長だが、臨時会後に引地町長からの発言は町ホームページ上のコメントのみだった。臨時会の傍聴者には議会中に引地町長の発言がなかったことへの批判も挙がっており、町民たちは町長から直接の説明を待ち望んでいる。(小幡あみ)

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