世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側の違法な勧誘で献金被害に遭ったとして、元信者の女性の遺族が教団などに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は、女性が教団に渡した「賠償を一切求めない」とする念書を無効と判断した。教団側の勝訴とした二審判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
無効の理由として最高裁は、女性が念書作成の約半年後に認知症と診断されたことや教団の心理的な影響下にあったことなどを挙げた。合理的な判断が困難な状態の女性に対し、念書は一方的に大きな不利益を与えるものとした。
念書や同意書があるために損害賠償を請求できない被害者は少なくない。被害救済への道を広げることにつながる意義は大きい。
念書の作成は女性が脱会の意思を示した後に行われた。文案を作った教団の信者らは公証役場に同行し、女性の意思を確認する様子もビデオ撮影していた。
当時の女性の状態を踏まえ、最高裁は教団側の主導の下で念書が締結されたなどとし、「公序良俗に反する」と断じた。教団が盾としてきた女性の「自由意思」とする主張が崩れた形だ。
献金勧誘の方法や金額が常識的な範囲ならば、そもそも賠償を請求されることは考えにくい。最高裁判決を受けてなお、教団が念書の有効性を主張するのは、常軌を逸した献金勧誘が行われていたことの裏返しでしかない。
献金勧誘について最高裁は、女性が土地を売るなどして1億円以上献金していた状況を異例と表現し、違法性を示唆した。さらに、寄付者が適切な判断ができないなどの事情を考慮し「勧誘の在り方が社会通念上相当な範囲を逸脱する場合には、違法とするのが相当」との判断の枠組みを示した。
判断の根拠となるのが、昨年1月施行の被害者救済法に定められた法人などの配慮義務だ。判決では献金勧誘について、個人の自由な意思を抑圧しない、寄付者や家族の生活の維持を困難にさせない―などとする規定が引用された。
新たに作られた法律は基本的に施行前の被害には適用されない。しかし今回、献金勧誘の違法性の判断について、最高裁は配慮義務の遡及(そきゅう)を認めた。全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣事務局次長は「過去の被害事例にも適用が及ぶ可能性がある」と評価する。
法施行前の被害、さらには寄付者の家族を含めて救済のハードルを下げる画期的な判断で、差し戻し審など今後の裁判への影響が注目される。裁判所には、慎重な審理と迅速な判断が求められる。