【7月18日付社説】特定秘密 防衛省不祥事/内部の理屈優先は許されぬ

07/18 08:10

 国民の安全を守る組織に法律より内部の理屈を優先する文化があるとすれば、その在り方を抜本的に見直すことが不可欠だ。

 安全保障に関わる「特定秘密」の不適切な取り扱いがあったとして、防衛省が海上自衛隊を中心に26人を停職などの懲戒処分、陸海空と統合幕僚監部、情報本部の89人を訓戒などとした。海自トップの酒井良海上幕僚長は退職する。事実上の更迭だ。

 防衛省によると、艦艇38隻で、無資格の隊員に特定秘密を取り扱わせるなどしていた。無資格の隊員が参加する会議でスクリーンに特定秘密を含む情報が表示されることもあった。

 特定秘密については、米軍などと機密情報の共有を図る前提として法整備が行われた経緯がある。身辺状況を調べた上で取り扱い資格を定め、それがなければ特定秘密を扱えないようになっている。

 無資格でも特定秘密に触れられる状態は、他国と共有している機密情報が漏れ、日本のみならず他国まで危険な状況に陥らせかねない。日本の防衛を担う組織がこのようにずさんな体制だったのが明らかになったことで、他国との信頼関係や安全保障の協力への影響も懸念される。

 防衛省や処分者の大半を占める海自は安全に対する意識が希薄だったというほかなく、厳しい非難に値する。

 無資格の隊員が秘密を取り扱う係に配置されていたケースもあった。その責任者は「(秘密を)理解できなければ漏えいではないと誤解していた」と説明しているという。これは誤解ではなく、恣意(しい)的な曲解だろう。

 海自は艦艇内の限定された空間で多くの乗組員が働いているため、秘密の取り扱いが難しいのは容易に想像できる。資格者の申請や許可には時間がかかるとの指摘もある。しかし、実際の運用に問題があるならば、政府や国会が法改正や組織体制の見直しの必要性を議論するのが筋だ。

 運用に適さない法は守らなくてもよいという気風では、有事の際に独断で誤った判断が行われる恐れを否定できない。防衛省や各自衛隊には、法の順守を改めて徹底することが求められる。

 経済安全保障の重要性の高まりから、国が身辺調査で信頼性を認めた人のみが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が決まっている。国の機関ですら法を守れないようでは、民間人に秘密保持の徹底を求めることはできない。国はそれを肝に銘じるべきだ。

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