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【7月20日付社説】小林製薬の紅麹問題/全容解明へ被害掘り起こせ

07/20 08:05

 健康被害に関する報告遅れを繰り返すのは、人の命や健康を軽視する企業体質の表れと言わざるを得ない。問題を引き起こした当事者としての認識が問われる。

 小林製薬は、機能性表示食品として販売した紅麹(べにこうじ)サプリメントの摂取と関連が疑われる多数の死亡事例を把握しておきながら、国から問い合わせを受けるまで追加報告をしていなかった。健康被害を初めて公表した際も、行政への情報提供が2カ月余り遅れた。

 小林製薬によると、これまではサプリの摂取が原因と推定される腎関連の疾患に絞って死亡事例を報告していた。しかし、サプリの摂取歴がある人の死因には腎関連疾患の他に、がんや脳梗塞といった幅広い疾患が含まれていることなどから、報告の基準や方法を変更した。このため報告対象となる死亡事例が増えたという。

 健康被害の原因や症状などについて解明の途上にある中で、行政への報告を腎関連疾患に絞っていたこれまでの対応は、問題の矮小(わいしょう)化にほかならない。国や本社のある大阪市は、情報を隠すような意図がなかったか一連の対応を調査する必要がある。

 再度の報告遅れを受け、国は、サプリ摂取と関連が疑われる死亡事例について、因果関係の調査の進め方をまとめた計画を小林製薬に提出させた。国は現在、計画に基づいて進捗(しんちょく)を管理している。

 先月下旬の追加報告の段階で76人だった死亡事例は、17日時点で95人となっている。新たな情報の公開が、調査を必要とする事例の掘り起こしにつながった。いまだ分からない健康被害の全容を、国主導で解明することが急務だ。

 機能性表示食品制度は、事業者の責任で効能や安全性の科学的根拠を示して国に届け出れば、効能をうたった商品を販売できる仕組みとなっている。現行法令で健康被害に関する報告が事業者の努力義務となっていることを含め、国が安全管理を事業者任せにしてきた面があるのは否めない。

 再発防止に向けて国が示した対応には、健康被害に関する行政への報告を9月から事業者に義務付けることが盛り込まれた。国の消費者委員会は、健康被害情報について「行政機関や事業者から可能な限り早期に公表される仕組みを設けることも検討すべきだ」などとする意見をまとめた。

 調査のために健康被害情報が留め置かれる可能性があるのは行政も同じで、報告の義務化だけでは不十分だ。国には、把握した情報を速やかに確認し、公表する体制を強化することが求められる。

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