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【8月1日付社説】小林製薬の紅麹問題/安全軽視の風土改革が急務

08/01 08:10

 消費者の安全確保を軽視する姿勢が甚だしい。健康に関わる企業としての存在意義が問われる。

 小林製薬は、紅麹(べにこうじ)サプリメントの健康被害問題を巡り、外部有識者でつくる検証委員会の報告書を公表した。検証委は、1月中旬から被害の連絡が相次いだことを踏まえ、遅くとも2月上旬以降、「全社を挙げて早急に対処すべき緊急事態」だったと指摘した。

 実際には、小林章浩社長は重大事案に集中的に対応する危機管理本部を設けず、平時と同じ毎週1回の審議会を中心に対応を話し合うのみだった。社外役員から客観的な提言を受ける機会も逸した。

 因果関係の究明ばかりに注力する、消極的で内向きな対応を正さなかった結果、消費者への注意喚起や製品回収など全てが後手に回った。企業統治体制が機能不全に陥っていたのは明らかだ。

 毒性のあるプベルル酸を産生する青カビが、紅麹原料の生産工場から採取されたことは既に報じられている。検証委の調査では新たに、現場担当者が早い段階で青カビの存在に気付いていたものの、特に問題視していなかったことが分かった。本社は現場の実態を把握していなかった。

 プベルル酸は健康被害の原因物質となった可能性がある。適切に対処していれば被害を防げたかもしれない。安全管理を現場任せにしてきた小林製薬に、健康食品などを扱う資格はない。

 会議資料には行政報告の要否を検討する要素として、評判の低下による「事業影響を考慮し判断」との記載があった。検証委は、安全を軽視するような議論は認められなかったとしている。ただ議事録はなく、透明性が不十分な中での調査だったのは間違いない。

 小林製薬は当初から情報開示に後ろ向きで、強制力のない検証委では全容解明に限界がある。消費者の安全よりも経営を優先するような判断はなかったか、監督官庁による調査が不可欠だ。

 小林一雅会長と章浩社長の引責辞任が決まったが、それぞれ特別顧問、取締役として残る。指導力を発揮できなかった両氏の責任の取り方として、被害者らの理解を得られるものではない。

 情報開示への対応を含め、創業家の意向が経営に反映されやすい企業体質との指摘がある。アリバイづくりのような人事ではなく、解体的出直しを図るべきだ。

 小林製薬は3月以降、記者会見を開いていない。信頼を回復したいのであれば、新たな経営陣は会見で改めて謝罪し、何をどう改革するのか、説明する必要がある。


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