県内の11河川で2023年度に水揚げされたサケの数が、前年度の2003匹を大きく下回る378匹だった。県によれば、記録が確認できる1951年以降で最少となり、水産資源としてのサケの先行きが懸念されている。
サケは太平洋側では茨城県以北に分布し、川から海に出た稚魚がオホーツク海などの北太平洋で4年ほどかけ成熟し、生まれた川に遡(そ)上(じょう)し産卵する。本県の11河川ではかつて20万匹を超える水揚げがあったが、東日本大震災後は双葉地方で稚魚放流が休止した影響などで3万~7万匹に減っていた。
サケの不漁は太平洋側の漁場で共通した傾向にあり、農林水産省は原因が海洋の気候変動にあると指摘する。海水温の上昇で稚魚が海に出る際に成長に適した温度である期間が短かったり、潮流の変化により北太平洋への移動が阻害されたりして、河川に返ってくるサケの数が減ったと分析する。
気候変動の影響は避けようのない状況だが、サケは稚魚の放流により人工的に再生産している水産資源だ。サケは漁業面に加え、浜通りの伝統的な食文化を支える食材で、やな場の設置などは地域の風物詩でもある。県や各地の漁協などの関係者が粘り強く稚魚の放流に取り組み、サケの恵みを次世代につなげていくことが重要だ。
昨年度の水揚げが急減した背景には、2019年の東日本台風の被害がある。相馬市を流れる宇多川でサケの卵をふ化させる施設が浸水したことなどで、稚魚の放流数は前年度の約10分の1の約110万匹に減り、4年後の水揚げ数に影響した。この年は不漁でもあったため、遡上してきたサケから十分な卵を確保することも難しかった。県は21年度から他県産の卵の移入を始めたが、近年は500万匹超の放流にとどまっている。
放流する稚魚数が少ない状況では、海から戻ってくる帰還率を上げていくことが欠かせない。他の道県の事例では、稚魚をより大きくして放流することが有効な対策とされる。県には、各漁協が稚魚を成長させる上でのコスト増を吸収できる支援の枠組みを整えるなどして、環境変化に応じた稚魚放流のサイクルを確立してほしい。
浪江町では、震災以降行われていない請戸川でのサケ漁復活に向け、サケのふ化施設の整備が始まった。最大で稚魚456万匹の飼育が可能で、早ければ来年度から放流を始める予定だ。請戸川は震災前、県全体の水揚げの3割を占める遡上地だった。請戸川の放流再開が、県全体の水揚げ量の底上げに結びつくことを期待したい。
【8月11日付社説】サケの水揚げ/粘り強い放流で資源確保を
08/11 08:00