【9月3日付社説】障害者の就労支援/安定して働ける場が不可欠

09/03 08:45

 相次ぐ制度変更などに振り回されず、安定して働ける環境を築いていくことが重要だ。

 障害者が働きながら技術や知識を身に付ける「就労継続支援A型事業所」の閉鎖が相次いでいる。今年3~7月に全国で329カ所が閉鎖され、少なくとも約5千人が解雇や退職となった。県内では3カ所が閉鎖され、利用者23人が解雇、退職となっている。

 A型事業所は一般企業で働くのが難しい障害者を対象に雇用契約を結び、最低賃金以上を支払った上で生産活動や職業訓練をする。

 閉鎖が相次いでいるのは、公費に依存した就労事業所の経営改善を促すため、収支の悪い事業者に対し、国から支払われる障害福祉サービスの報酬(給付金)が引き下げられたためだ。国が引き下げを2月に発表、4月に実施した。

 閉鎖したA型事業所の4割強は最低賃金が適用されないB型事業所に移行した。このため収入が減ったり、働く場所を失ったりした利用者が少なくないという。

 事業者の赤字体質を改めるとはいえ、発表から実施までに2カ月しかなかった。今後も事業所の閉鎖、解雇などの懸念が拭えない。

 国、県は、報酬引き下げが事業者や利用者にどのような影響を及ぼしているか実態を把握し、必要な支援を急ぐ必要がある。

 A型事業所の制度は2006年に創設され、株式会社の参入も可能になった。事業所は増え、障害者がデータ入力、清掃、菓子などの製造、配達業務などに取り組んでいるものの、多くの事業所は厳しい経営を強いられている。

 また事業所数の増加に伴い、国からの給付金や助成金を目当てとした悪質な事業者も現れた。これを受け、国は17年に報酬の支給要件を厳格化したが、今回と同様に事業所の閉鎖などが相次ぎ、失職する利用者が急増した。

 A型事業所は生産活動の売り上げから賃金を支払わなければならない。しかし厚生労働省によると約4割の事業所は赤字経営だ。事業者が懸命に取り組んでも経営状況が改善せず、さらに報酬が引き下げられれば事業を断念せざるを得なくなる。国が、障害者の就労や訓練の機会を奪う形になる。

 国は報酬の引き下げとともに、事業者の生産性向上、収支の改善につながる策も検討すべきだ。

 今月は障害者雇用支援月間だ。一人でも多くの障害者が仕事を通じて社会活動に参加し、経済的に自立できるようにする意義は大きい。国や自治体、民間企業が綿密に連携し、障害者の活躍の場を増やしていかなければならない。

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